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さら、と髪を撫でられる感覚。それとふにっ、と額に何か柔らかい物も触れたみたいな。
…また、髪に触れられる。今度は頬に柔らかい感覚。くすぐったっ…
「……んうー?」
すりすり、と擦りよってみる。そうすると。
ふっ…
低い声の笑い声。あれ、なぜだか聞いた事ある気が。しかもついさっきとか。
ぱちっ
薄目を開けてみる。白い天井。ダリアの花が広がったような、上品な照明。
私ん家、こんなオシャレライトあったっけ?…あれ、照明の紐にくくりつけた、夜光くんがない。あのこ、電気消したら光るから大切にしてたのに。
「や、こう…くん…」
ひも切れて落ちたのかな。
って言いたかったんだけど。
「……えっ」
がばっ、と何かにのし掛かられて。しかも上から両手を押さえつけられてしまった。
かち合ったのは、私を射抜くような強い眼差し。さっきのイケメン!?
「や、なに…っ」
「やこうくん、とは誰だ」
知らんがな。
「えっ、ちょっと…えっ?」
やばい。頭がパニクっているね!ニセ中国人みたいになってるし。「いやいや、あなた誰?しかもここどこ?ていうか、離れて!」
近い!無駄に近い!
鼻先がふれあいそうな程近くに詰め寄られて、変にドキドキする。
私、この年までお付き合い経験0のぴゅあがーるなんですからね。
異性とこんな鼻息感じそうな程に距離詰めたの初めてですから。
「やこうくん、が誰か話したらどいてやる」
あなた、めちゃくちゃ偉そうですね。
「えっ…やこうくんは、暗いところで光る夜行性なステキ男子の人形、だけど…」
恐る恐る、イケメンの鋭い目を見ながら答える。私、とって食われそう。頭からがぶりと。
「……人形」
鋭い目が、険しい色を少し緩ませる。
「うん、人形ですね」
彼はそれ以上でも、それ以下でもないんです。
わかってくれたかな ?と、イケメンをじっと下から(状況的に、そうなっちゃう)覗き込む。
はっ、と目を見開いたイケメンが、かあっと真っ赤になった。
うわ、耳まで赤くなってる。
イケメンは、しゅばっと勢いよく私の上から跳ね起きた。
わお、勢いよすぎてベッドが、がたんって言った。
びっくりして、思わず私もベッドから上半身を起こす。
その時、右肘に鈍い痛みが走る。
「いっ…」
なんだろ、と肘を撫でると、湿布が貼ってあるみたい。
…そういえば、けっこう吹っ飛んだもんな私。このイケメン、どういう訳かかばってくれたとはいえ、打ち身くらいはあるよね。
まあ他はこれといって外傷はないみたい。軽く体を撫でて確認。
よし。
「で。……あなた、誰ですか」
跳び退いてベッドの端に居たイケメンを、きっと睨み付ける。…まだ顔赤いし。イケメンは、私と視線がかち合うと、私の足元にとす、と足を折って座り、両手をついて頭を下げた。
「………えっ」
土下座?…うん、土下座ですね。
どうしよう。今すごくこの場から逃げ出したい。
しかも、土下座するだけしといて、何も言わないしこの人。
なんかやっぱり恐い。
「あの…」
「俺と結婚してくれ」
居たたまれなくなって、声を掛けたと同時に。
耳を疑う様な言葉が聞こえた。
いやまさか。聞き間違いでしょう。
嘘でしょう、という雰囲気が相手に伝わったのか、
「結婚して欲しいんだ。俺と」
もう一度、おっどろきーな事を言われてしまった。