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新歓オリエンテーションが終わって、やっと説明やら勧誘やらから解放された。ちなみに、晩ごはんも一緒に!って私の腕を掴んで駆け出そうとする唯をやっとの思いで振り切り、1人とぼとぼと帰路についた。
いや、色々な事あって疲れたからさ。ちょっと1人になりたくて。
「疲れた…」
アパートまでの徒歩15分が長ーく感じる。ちぇっ、今度自転車でも買おうかな。
……ん?
視線を感じる。
ちらっ
足を止めて振り返ると、さっき曲がった電柱のある曲がり角に、黒い影。
ちょうどよく、逆光になってて何がいるのか見えない。人だってのはシルエットでわかるけど。
………えっ。
まあ、気のせいか。うん。……早く帰ろう。
サカサカと早くなる両手足。まるでゴキ〇リみたいな私。
ちょっと歩いて、またちらっと見ると、しゅばっと何か(誰か)が動いた。
……えっ。
やばい。不審者だろうか…私みたいな平凡でも、襲う気になるの?
さーっと血が引いていく。やばい、逃げなきゃ。
一目散に駆け出す。ともかく、逃げなきゃって事しか頭にない。
後ろから、何かも追ってくる気配がする。怖い。なんで追ってくるの?!
足をもつらせながら、必死で駆ける。
あの曲がり角を曲がれば、アパートが見える。
逃げ切れる。
そう思って少し安心したのがいけなかったのか。
角を曲がった瞬間。
ずしゃっ
派手にこけた。
こんな時に不幸モード発動!?そんな、追いつかれるっ…!
恐怖で足がすくんで、立ち上がれない。役たたずな足。
もう、追ってきた誰かはこの角を曲がるかもしれないのに。
怖い。怖い。怖い。
ガタガタ体が震えだした。その時。
角を曲がって、男が飛び込んできた。
「きゃ……っ!!!」
悲鳴をあげようとした唇に、何かがぶつかってきた。
さっきの男だ!走ってきた勢いそのままにぶつかってこられて、私はふっとばされ……なかった。
あれ?
なんか、体を抱き込まれて…守られてる?そりゃあ、勢いすごかったから軽く飛ばされたけど、男が腕を差し込んで地面との間にクッションになってくれたから、痛みは軽減されたみたい。
「わ、わるい!まさか転んでるとは思わなかった。大丈夫か?」
至近距離でわめく男。いや、近い。いやそれよりも、今…
「きす、しちゃった…」
ぶつかって、2人でふっとんで、衝撃にぐっと息が漏れて、その後、ふにゃっとしたものが唇に。
目を開けたら、あらまあ、目の前に超イケメンが。
「……えっ」
不審者がイケメンでそのイケメンがぶつかってきて唇と唇がジャストにミートしちゃってふにゃっとぶちゅっときすが…
「おろ?」
知恵里は目の前が真っ暗になった。