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ずいぶんと久しぶりの投稿になりました。ここからラストに向けて、急展開になる予定です。

どうした?って不思議そうに こっちを見る変態。あれ、なんでこんな所にいるのかな?あっ、そう言えばこいつ、私のストーカーなんだっけ。あはは、スーパーとかで優しくされたから、すっかり忘れちゃってた。いやだ私ったら、うっかりさん。これだから唯様に馬鹿にされるんだわ。



もさもさのカツラ越しに私を見つめるストーカー変態野郎と、バッチリ目が合っちゃったりして。反射的に にこ、と笑顔をつくる私。こんな時、ああ、私って日本人だなあって思う。いつもより頬がひきつってるのは、私の心のうちの荒れ模様を反映しているわけですよ。

でも、いつまでもぽけらーとしていられないし。とりあえずこいつ、どうしてくれよう。



「…何故に ここにいるのか、その変装は何なのか、答えなさい」


襟首掴んでド頭揺さぶりたい衝動を なんとか収めて。私は苛立ちを含んだジト目で変態を睨み付ける。さりげなくペンケースを確保するのも忘れない。



「何故って…」


私の質問に、変態は目を伏せて。口許を手で隠しながら、


「いつでも妻のそばにいたい、と思うのは夫なら当然だろう?これ(変装)は、俺が研究室を出ると周囲がうるさいんだ。以前、雑誌のインタビューを受けたのが間違いだったな。あれから 無駄に声をかけられることが多くなった」


げんなりした表情で、眼鏡を つい、と押し上げる。


はいはい、いつ私があんたの妻になりましたか。寝言は寝ているときだけにしてよね。それと、周囲に騒がれるのは仕方ないでしょ。すごく不本意だけど、あんた見た目はすっごく極上だもん。ご両親に感謝した方がいいよ?





憎まれ口がのどまで出掛けたけど。私は何にも言えずに、変態男を見つめるだけ。



いつも私に甘いことばっかり言ってるけど…本当はどんな気持ちで私に好きとか言ってるの?あんたみたいなキラキラしたイケメンが、地味モサな私が好きなんて…









冗談にしか、受け取れないよ。















「ち…理、…智恵理!!」


「うあいっ?!」


思考回路、ショートしてたみたい。唯の大声で耳がキーンってなってる。耳を押さえながら周りを見れば、皆もう荷物をまとめて教室から出るところだった。マジか。ボケッとするにしても、限度があるでしょ自分。後で唯にノート借りなきゃ…



「頭大丈夫?ぼーっとして、講義もろくに聞いてなかったんじゃないの?」


唯にしては珍しく、心配そうに私をうかがってる。


「その通りだけど。今は頭より耳がクラッシュして…ううん、何でもないの。」



はあ?!って顔して睨まないでね。私だって、親友にそんな顔されたら ちょこっと傷ついちゃうから。


「今朝は だいぶうなされていたようだったな。唸りながら苦しそうな声を出しているし、なかなか目覚ましを止めないから心配した」



あれ?なんで今朝の私をそんなに知っているの?アパートでお隣さんってのは把握しているけどさ、そんな唸り声聞こえるほど壁薄かったのかな…?ちょっと唯、そんな輝いた目で見ないでよ!その期待に満ちた目は何?


「貴方たち、まさか…」


頬に手を当てて、少し頬を赤らめた唯は可愛かった。だけどもさ。


「ついに智恵理も処女捨てたのね!あんたが寝坊なんて珍しくもないけど、物思いに耽るなんて、なんだか気持ち悪いなって思ってたのよ。隣には変装した二階堂教授もいるし!智恵理ってば、迷惑そうにしながら、教授とできてンモガッ…」


「ちょ、ちょっと唯!」


マシンガントークで有り得ない事を言い始めた唯の口を、慌ててふさぐ。何気に恥ずかしい情報漏れてますから!ついでに気持ち悪いなんて言われたら、私やっぱり傷つきますから!!


そこの変態!さりげなく嬉しそうに微笑むな!



「違うから!唯、誤解だから!私こんな変態と付き合ってないし、何にもないから!」


「何にもなくは、ないだろう」


お黙り変態!唯の目が輝きを増してギラついているのが分からないのか。


「何にもなかった訳じゃない。何度もキスをし」「わゎわわわぁわぁわーー?!」


何を暴露しようとしてるのさ?!もう私の頭のキャパシティー超えしちゃいそう。大声でやかましく叫びながら、変態の口をふさぐ。片手で唯を。またも片手で変態の口を。あれ?これって両手に花?激しく間違っている気もするけど、どっちも見目麗しいよ。あははは。私壊れかけてるわコレ。


もがく二人を一心不乱に押さえつける私。もし私が当事者じゃなく部外者だったなら、通報してたかもしれないなあ。あ、不審者は勿論、わ・た・し。なーんてね。






いいんだよ、何も言わないで。目の前の現実から目を背けたくなる気持ち、わかってくれるでしょ?



いつか見た、テレビの放送事故の差し換え画面みたいに、頭のなか お花畑になっていた私。でもそんな楽園は、突然予想外の形でかき消される。



がぶっ

ぺろっ


「ーーーーー!」


声にならない悲鳴をあげて、私は二人から手を離す。信じられない!この人たち、人の手を噛んで舐めたー!





「しょっぱい…不味いわね」


「何をふざけた事を。智恵理はどこを舐めても甘い」



もうやめて。私が悪かったから、もう私を そっとしておいて。涙をだばだば流しながら、噛まれた手を擦り、舐められた手を変態の服でガシガシ拭いた。


「智恵理、もう白状しちゃいなさいよ。教授とできてるんでしょ?」


「違うって。断じてお付き合いなんてしておりません!絶対有り得ないし!」


そこは全力で否定するよ。こんな変態のお遊びに付き合うほど、暇じゃないのよ私は。

きっぱりと言い切った私と、変態の視線がパチッとぶつかり合った。



えっ?なんで、




なんで、そんな苦しそうな顔してるの…?


あいつは、私を じっと見詰めたまま、苦しそうに眉を寄せていた。それに気づかない唯は、興奮した様子で早口で問い掛けてくる。



「だって、教授と今朝一緒に寝てたんでしょ?じゃなきゃ智恵理の寝起きの様子を細かく知ってるはずないじゃない」


「それは、そうなんだけど…」


唯の言い分はもっともだと思う。アパートの隣同士で、例えば目覚ましのアラームが聞こえたとしても。人の唸り声まで聞こえるもんかな?入学から今日まで住んでるけど、隣人の生活音はかすかに聞こえても、声までは聞こえなかった。あんなに詳細に知っているのって、ちょっとオカシイよね。

普段の私だったら、どういうわけなの?!って問い詰めていたと思う。でもなぜか今は、さっきの変態の苦し気な顔が胸に突っ掛かって、それどころじゃなくて…




すぐに私から目をそらした変態は、どこか悲しげに視線を下に落とした。









いつも、私が何を言っても、何でもないような顔してたじゃん。なのに、なんでそんな傷ついた様な顔するの?遊びで私にちょっかいだして からかって…酷いのは そっちじゃん…



期待する唯をちら、と見て。私は力のない笑みを浮かべた。


「唯…私たち、本当に何でもないんだよ。何回か きっ、…キス、しちゃったのは本当だけど…あんなの事故みたいなもんだし!犬に噛まれたと思って忘れるよ。それに、変た…教授が私なんか本気で相手にするはずないでしょ?いい加減、からかうのはやめて欲しいなって、思ってたとこなんだ!」



努めて明るい声音で言った。大丈夫。バレていないはず。




自分で言っておきながら、心臓がズキズキ痛んでいるなんて摩訶不思議な事態を、悟られてはいないはず。







…あ、やっぱりダメかも。笑ってごまかそうとしたのに、涙がじんわりと滲んできちゃった。

唯だって、心配そうな顔してるじゃん…失敗したなあ。笑顔で言い切って、スルーして、はい終わり!って片付ける予定だったのに。


想定外の涙を、隠すように そっと 拭おうとした時。












「ふざけるな…」



黙って私たちの会話を聞いているだけだった変態が、ぽつりと声を漏らした。




「「え?」」



かなりの低音と囁くように紡がれた言葉を聞き取れなくて、私と唯は変態に視線を向けた。


そこには肩を震わせ、怒りをあらわにした変態が私たちを……いや、私を射抜くように睨み付けていた。


「「ひいっ…?!」」


変態が発する肌にまで感じるビリビリとした怒気に、思わず唯と抱き合ってしまう。



そんな私たちを見て、ピクリと変態の眉が吊り上がった気がした。そして、ゆらりと身体を揺らして、一歩、私たちに近づく。


私も唯も、声もなく変態を見つめるだけ。張り詰めた空気が、変態の恐ろしさを より引き立てている。さっきまで普通に会話をしていたから、距離なんて全然近かったわけで。しかも変態は足が長くていらっしゃるから、たった三歩で私の目の前に。












「あ、ごめ、なさ…」


訳もわからずに、謝ってみる。無意識に口から出た謝罪も、片言で不明瞭。でも、仕方ないじゃない。怖くて顔が見れないんだもん!

変態の爪先を 見詰めて、なんで怒ってるの?とか、ここから逃げたいとか ぐるぐる同じことを考える。


すると、変態が私に手を延ばしたのが見えて。

もしや殴られる?!と目をぎゅっと閉じて身体を固くした。






でも、予想外の場所…あごを優しく掴まれる感触がして。ん?とハテナを飛ばしている間に、くいっとあごを上にすくわれて。



次の瞬間。唇にやわらかいものが押しつけられた。あれ?この感触、知ってるぞ?


まさかと思って恐る恐る目を開いてみれば。





やっぱり、めちゃくちゃ至近距離に変態の顔が。

なぜここで。この場面(シーン)でキスになるの?!頭から足の先まで真っ赤になって硬直した私を置いてきぼりに、変態は更にキスを深める。


もう、キスっていうか、私食べられてる?!ついばむように重なっていた唇が、今やむさぼるように吸い付かれている。私はどんどん深くなるキスに着いていけずに、息苦しくて堪らない。キスの合間に酸素を求めても、またすぐに熱い唇に塞がれてしまう。


いつの間にかギャラリーがいたらしく、私たちを取り囲んで きゃーとかひゅーとか悲鳴や口笛が聞こえる。そういえばここ、普通に教室だった。それに次の講義も当然、ここで行われるよね。











私たち、注目の的だよね。




それに思い至って、キスのせいじゃなく更に顔が赤くなる。


「んーっ!んむぅーっ!」


やめて、離してって叫んでるつもりでも、変態に塞がれたままの口じゃあ、ちゃんとした言葉にならなくて。


とにかく、変態から離れたくて。変態の胸だか肩だか、手当たり次第に叩きまくった。なのにこいつ、動じない!


ついには私も力を振り絞って。必殺の一撃とばかりに、頬をばちんと張り倒した。


「つっ…」


よかった。さすがにこれは効いたらしい。やっと解放された私は、思いっきり空気を吸い込んだ。ああ、酸素が美味しい。


ぺた、と私が床に座り込むと。





ざわっ、と空気が揺れた。先程よりも大きなざわめきと悲鳴。黄色い声がふんだんに混ざっていた様に感じた。


何?と思いながらも、とにかく空気が美味しかった私は、全く気づいていなかった。


私が変態を叩いた拍子に、あいつのかつらと眼鏡も同時に吹っ飛ばしていたということに。







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