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ふう。


溜め息が止まらない。ついでにお腹もへった。


あの後、「嘘っ不特定多数の人の憧れの的っていうか超優良物件ひっかけるなんて有り得ないんだけどっでもなんか笑えてくるのは何故かしらっ」とか若干キャラ壊れながらぎゃあぎゃあまくし立てる唯のアパートから駆け足で退散した私は、その足で近くのスーパーへ向かった。


腹がすいては戦もできぬ。


昔の人は、良く言ったものだ。戦する気はないけど。むしろ、これから和平条約結ぶために頑張る訳だけど。

まあ、近い内にどうにかして話をつけるしかないかな…3日後でも1週間後でも…とか言ってるうちに、変態がゲームに飽きて付きまといをやめるだろうか。…やめてくれると非常に助かるけれど。



これから起こるであろう変態との対決を思うと…ちょっと、お腹がキリッとする。胃じゃなくて、お腹かよ私。あれか、精神的にきてる訳じゃなくて、ただ単にお腹すいてるからだったりして。


あー あー。



だめだ。余計なこと考えないで、ご飯のことだけ考えよう。うん、お腹すいてるからナーバスになって、調子悪いんだ。よし!早い。安い。うまいごはん作って食べよう。


スーパーに到着。買い物かごを手に、いざ行かん。

自動ドアをくぐって、スーパーの中へ。…いつもより、人が極端に少ない気がする。品物を並べた棚も、ちらほらと空きが目立つ。




「ありゃ…?」




ちら、と壁に埋め込まれた時計を見やる。今気づいたけど…もう夜の10時じゃん。道理でスーパーまでの道のりが人いないと思った。すごく暗かったし。私、気持ちはまだ七時前なんですけと。



変態の家を飛び出したのが夕方で、唯の部屋に行って何だかんだと話してたからこんな時間になっちゃってたんだ。


そりゃあ、お腹もすくよね。さて、何食べよう。あーなんか…こんな遅い時間に料理するのも面倒くさくなってきたし…お惣菜でも買って帰ろうかな。鍋に一昨日つくった肉じゃがもあるし。あれはそろそろ食べきらないとまずい。腐っちゃう。せっかく味付けうまくいったのは嬉しかったけど、量が多すぎた。今度は半分くらいの量を目安につくろうかな。


惣菜コーナーをぶらぶらする。ここも平素と比べて品数が少ない。

あ、きんぴらごぼう50円引きになってる…


買っちゃおうかな…夜遅くても、和食ならお腹も(腸内活動締め切り間近でも)許してくれる気がする。パックを手に取り、かごに入れようとして。


ハッと気づいた。



私の鞄!というか、携帯とか財布とかその他プラスアルファを変態の家に忘れて来てる!










まずい。まずいよまずいよ。鞄には家の鍵だって入ってるし、携帯なんて個人情報満載じゃん!








「どうしよう…」







きんぴらごぼうを見つめたまま、私はスーパーで立ち尽くしてしまった。




どうやら、自ら変態のもとに出向かなくてはならないみたい。


ああ、胃が痛い…。


また今日のうちに、あの変態と顔を会わせなきゃいけないなんて。神様は意地悪すぎる。


「あの変態、ちゃんと自分の家に居るのかな…」




まさか、鞄の中の鍵を使って私の部屋に侵入してたりしないよね…?



…なにそれ怖い。背中にヒヤリとしたものが走る。



「は、早くあの変態に会って返してもらわなきゃ…っ」



私は焦りながら、きんぴらごぼうを棚に戻す。





ところが。



そのきんぴらごぼうを横から延びた長い手に捕まれた。



えっ。


あの…私の手まで掴んでますけど。




なんと、このお方。パックを持った私の手ごと一掴みしてる。



置いた瞬間掴み取られるって、なかなかない体験だよね。そんなにこれが欲しかったのだろうか。このきんぴらごぼう50円引きが。


わかりました。あなたのきんぴらごぼうに対する熱い思いには負けました。だからこの手を離してください。このきんぴらごぼうはあなたのものです。

そもそも、これは棚に戻そうとしたのだから、そんなにがっちりと私の手ごと掴まなくても…



手を捕まれてから、約1秒間でこんだけ思考がめぐった。実際には手を掴まれてすぐに振り返ろうとしたんだけど…斜め後ろから聞こえてきた低い声に、私は体が凍りついた様に動けなくなってしまった。




「これ、食べたいなら買ってもいいんだぞ?…智恵理、ここのスーパーのきんぴらごぼう好きだったもんな」



甘い口調に、髪にキスされたような感触。そして私の手を包み込むように添えられていた指が、更に深く絡まってくる。






あ、あわわわわゎわゎわ…!




でっ、出た……変態!












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