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私のとっておきの作戦。
それは、変態に友達になってもらう事。友達だったら、下手に手を出したりできないだろうし、万が一、またあだるとな事を仕掛けてきても、「ひどい…私たち友達じゃなかったの…?」ってな感じで撃退できちゃう。
それに…本当は、冗談です。とか言われて、からかわれたら悔しいっていうか、恥ずかしいっていうか…。本気になんてしてないんだからね!っていう体でいたいのだ、私は。
これまでの人生、一切男っ気がなかった私が、とんでもなくハイスペックなイケメンにプロポーズされました。…なんて本人も驚愕の出来事、誰が信じてくれるの?普段から私をぼけぼけでもさもさの娘だとわかっている両親に聞かせたら、「……ねえそれなんていうシンデレラ?」と指を指されて大爆笑されるに違いない。あの人たちは確実にやる。
しかも、唯が言ってたじゃない。とんでもなく頭がいい人だって。天才は凡人のはるか斜め上をいくものだろうから、きっと凡人の私には考えもつかない、暇潰しや罰ゲームに偶然私が巻き込。あの婚姻届も、私に本気でせまっていると思わせるための小道具だったんだ。教授になるくらい賢い人なんだから、相手を完璧に騙すことぐらい、簡単にやってのけてしまうだろうし。
それに大学の教授ってお金持ってそうだし。イケメンだし。そんなあいつを女の子が放っておくわけない。女の子とキスしたり、それ以上も経験豊富で、たまにはゲテモノに手を出してみようかなーぐへへ。なんて軽ーい気持ちで私をからかって遊んでいるんだろう。
あいつが他の女の子にキスしているところが浮かんで、胸がきゅうっとした。
あーあ。気持ちがどんどん落ちていく。ちょっと冷静に考えてみれば、すぐにわかることじゃん。あんなやつが、わたしみたいなダサくてもさくてぱっとしない凡人を好きになるわけないし…。
…ちょっと、嬉しかったんだけどな。言ってることとやってることはハチャメチャだったけど…
きっと、私のこれから生きていく何十年先にも、あんなに熱烈で激しい気持ちをぶつけられることはもうないだろう。その気持ちや態度が嘘だったのは、やっぱりとても悲しいけども。
私には私と同じくらいダサくてもさくて凡人の彼氏ができて、ぼんやりお付き合いをして、ぼんやり結婚して、子供を生んで育てて。凡人は凡人らしく、目立つことなく、慎ましく生きていく。そんなものでしょ、人生なんて。
あいつみたいにきらびやかな人間には華やかな人生が似合うんだろうけど。
そのきらびやかな人生に凡人がちょっと足首捕まれて爪先突っ込んじゃったくらいだから、何にも害はない。
あ、あった。
私のファーストキス。
それに考え付いた瞬間、あいつとのキスがチラッと頭をよぎった。
本来なら、ダサくてもさくて凡人の彼氏(将来の旦那様候補)にあげるはずだったのに!しかも本当に好きだったからじゃなくて、罰ゲームでのいざこざに巻き込まれて奪われるなんて。
……泣きそうだ。自分の唇が汚されてしまった気持ちになる。
ぽろり、と涙がこぼれた。
どうして泣いてるのかな、私。ファーストキス奪われたから?それとも、罰ゲームに利用されたから?
それも当たりだけど、外れかな。…私に、好きって言ってくれたことが嘘だったのが…いちばん、悲しいみたい。