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2.潜在能力

 アリス王女に呼ばれ、整列する鎧たちの奥から一人の男が姿を現した。歩く度にガチャガチャと金属音をならす、分厚い鎧を着た大男。幸いにも兜は身に付けていないため、その凶悪な顔を拝むことが出来た。


「俺はフェルマニア騎士団総団長……名はベルザムだ。今後は君達の指導役を務めることになる。よろしく頼む」


 ベルザムと名乗る男は、只者ではない威圧感を放ちながら自己紹介を終えた。いずれ多分きっと、殺されるんじゃないかとユウは思う。こんな極悪顔と仲良くなんてなれるはずもない。


「早速で悪いが、今後の指導の為にも、勇者である君達の能力を把握しておきたい。まずはこの水晶に触れてみてくれ」


 そう言ってベルザムが部下に用意させたのは、直径一メートル程の大きな水晶だった。


「あの、これは一体……?」


 皆の代表一神が尋ねると、ベルザムは腕組みをして答えた。


「これは神魔水晶。触れた者のマナに反応して光を放つ。ものは試し、触れてみろ」


 言われるままに先頭にいた一神が戸惑いながらも水晶に指先を触れさせた。

 その瞬間、水晶から銀色に輝く眩い光が爆発する様に辺りを包み込んだ。

 兵士達にどよめきの声が上がる。


「やはり上級騎士……いやそれ以上の……」


 ベルザムが驚いた顔で呟いた。

 一神が手を離すと光は一瞬でしぼんで消えてしまった。

 するとその数秒後、兵士達の歓声が次々に上がり始めた。

 それを前にぽかんとした顔つきで一神は突っ立っている。


「あの……」

「凄いです!こんな輝き初めて見ました!まだなんの鍛錬も積んでいないというのに……!」


 戸惑う一神を他所に、アリス王女はキラキラした目ではしゃいでいた。


「想像以上だ。やはり君達が勇者であることは紛れもない事実のようだな」


 ベルザムもどこか嬉しそうにそう言った。

 戸惑いながら一神が尋ねる。


「あの、まだよく分かってないんですけど、これって凄いことなんですか?」

「あぁ試すようなことをして悪かった。我々は君達を勇者として迎え入れたはいいが、実のところ君達が本当に伝説の勇者なのかは確信できていなかった。だから水晶の輝き次第では君達を疑うことになっていた可能性もあったんだ」

「じゃあ……」

「ああ。かの伝説も、アリス王女の受けた信託も、全て正しかった。君達こそが本物の勇者だと、たった今確信したよ」


 それを聞いて少し嬉しそうな一神の背中を星野がばんと叩いた。


「すっごい光だったね!よくわかんないけど凄いじゃん!」

「凄い、のかな……?あまり実感は無いんだけど。それにマナっていうのも、いまいちよくわからない」


 するとベルザムがすぐに答えた。


「かつての伝説が記された文献によれば、勇者のいた世界にはそもそもマナ自体が存在しなかったようだ。おそらく君達の世界も同じなのだろう。実感がわかずとも無理は無い。しかしながら君のそのマナはもはや聖騎士級、自信を持っていい。マナとは普通、鍛錬によって鍛え上げていくもの。しかし君達はこの世界に来たばかり、言うなれば赤子同然の状態だ。潜在的なセンスのみでこの強大なマナを持つことは、通常では考えられないことだ」


 ベルザムがそう言うと、一神が照れくさそうに頭を搔いた。

 するとアリス王女が「ささ、他のみなさまも是非水晶に触れてみてください」と急かした。

 言われて水晶に歩み寄ったのは星野だった。

 彼女は一息飲んだあと、指先を水晶へと近づける。するとまたしても強烈な輝きが水晶から放たれた。先程の一神程では無いが、それに近しい輝きだ。

 周りの鎧達の反応を見るに、どうやら彼女も並外れているようだ。

 その後は成村、桐山の順に水晶に触れ、もれなく目潰し級の光を放ったあと賞賛の声を頂いていた。

 どうやらマナとやらが一番凄いのは一神のようだ。次いで成村、桐山、星野といった順だ。しかし一神以外の三人にはそこまで大きな差は感じなかった。おそらく全員漏れなく並外れということだろう。


 そしていよいよユウの番がやってきた。

 少し緊張する。そんなユウの様子を隣で見ていたアリス王女が優しい顔で言う。


「気楽にしてください。ただマナを図るだけですので。神魔水晶は本来マナの抑制や隠蔽を暴くためのもの。ですが、もはや皆様が勇者であることに疑いの余地はありません。今後の鍛錬や記録を残す都合上、ご協力頂いているだけですので」

「あ、ああはい」


 さっき泣いてた女とは思えないほどケロッとしてる。


 ――はっ、俺達の協力を得られたのがそんな嬉しいか。俺はまだ一ミリも納得いってねぇんだぞクソ。


 とはいえ今は流れに乗るしかないよな、と思いながらユウは水晶に手を触れた。


「……………………。あれ?」


 確かに手は水晶に触れている筈なのに、水晶はピクリとも反応しない。


 ――いやいや、いやいやいやまてまて。さっきまであんなに元気だったのに、何だよ畜生なんなんだよっ。


 触れ方がいけないのかと水晶をあちこち撫で回してみるが、光は放たれない。


「どうした?早く水晶に触れてみろ」


 ベルザムが背後から急かす。


「いや、あの、もう触れてるんですけど……」


 そう言いながら、焦って隣にいるアリス王女の顔を見る。

 王女は物凄く微妙な表情をしていた。


「え、えぇと……」


 しかしかける言葉は思いついて無いようだ。


「ま、まさか……マナゼロ……?」


 誰かがどこかで呟いた。

 それを皮切りに、兵士達のヒソヒソ声が部屋中に鳴り始めた。

 全身から汗が滲み出てくる。


 ――は?何それ何それ何だよそれ!マナゼロってなに?マナないの俺?ふざけんなよ!何でこの流れで俺だけマナゼロって、はあ?!


 頭の中で叫ぶユウの、額と背中が汗でヤバいことになってきた。

 そんな時、

 

「ああ……!」


 アリス王女が叫んだ。


「待ってください!よく見てください!うっすら小さく、光ってます……!」


 言われて水晶をよく見ると、確かに水晶の真ん中がうっすらぼんやりと光っている。


「よかったですね!マナゼロじゃないですよ!」


 王女が心底笑顔でそう言うので、思わずホッと息をついた。


「よ、よかったあ………………って、これどうなの?いいの?悪いの?」

「…………ああ、ええと」


 王女は視線を逸らした。

 そしてまたしても微妙な顔つきをしてこう言った。


「多分、おそらく、ですけど……ごく一般的な子供、のマナ量…………くらいです」


 その瞬間ユウは膝を着いて崩れ落ちた。


「で、でもでも、子供って言っても元気な子供ですよ!?病気もなくて健康で、育ち盛りなわんぱく少年くらいはありますよ!!」


 食いつくように何とか捻り出したような言葉で王女は言うが、全くフォローになっていない。寧ろ馬鹿にされてる気さえする。

 するとベルザムはまた腕組みして言った。


「落ち込むにはまだ早いぞ。マナが弱いといっても、鍛錬次第でまだまだ伸び代はある。それに、まだ君達の能力が全て判明した訳では無い。ローゼル」


 ベルザムに呼ばれて現れたのは、真っ白な長髭をたずさえた老人だった。

 老人はローマ法王みたいな祭服を纏っている。


「彼はこの王城に務める宮廷魔道神官ローゼルだ。如何なる者も彼の真眼を誤魔化すことは出来ん」


 ベルザムに紹介され、ローゼルはぺこりと軽く頭を下げた。


「次は彼に君達の潜在能力を測ってもらう」


 するとローゼルは、ユウの身体を頭から爪先までじっくりと舐める様に眺め見た。


「なるほど……確かに珍しい天恵を持っておられる」


 ローゼルはそう言うと、懐から羽根ペンを取り出し、あせた色の羊皮紙に何かを書き始めた。

 カリカリとペンの音を鳴らし、少ししてから手を止めたローゼルは、出来上がった紙を震えた手付きでこちらによこす。


 なんだ?

 紙には見たこともない文字が並んでいた。


「天恵……超、回復? 言語理解?」


 そう書いてある。

 初めて見る文字にも関わらずそれが読める。


「それが貴方様に潜在する天恵でございます」


 ローゼルがしゃがれた声でそう言うと、アリス王女が「まあ!」と手を合わせて喜んだ。


「凄いです!天恵を二つもお持ちだなんて!」

「あのー、天恵って何ですか?」


 ユウが尋ねると、ベルザムはまた腕組みで答えた。


「天恵とは言わば神の加の加護、持って生まれた得意な体質や才技のことを指す。天恵を持つ者は、常人には決して真似できない超常能力を扱うことが出来る」

「超常能力……」


 何だか物凄くかっこいい響だ、と思う。


「天恵によって能力は様々。ローゼルの真眼もそのひとつだ。ものにもよるが、天恵はそれひとつで戦況を大きく覆すこともある。だが天恵を持って生まれてくる者はこの世界でも極わずかだ。複数所持者となると尚更な。稀に後天的に身に付ける者もいると聞くが、俺は見たことがないな」


 それを聞いて胸が高鳴ってきた。そんな凄い力が自分にも。

 するとアリス王女はキラキラした瞳で、急かす様にローゼルに尋ねた。


「それで、勇者様の天恵は一体どの様な力なのです?」

「言葉通りです。超回復は自身の肉体を常に最も健康な状態へと維持、回復する力を持っております」

「まあ凄いです!そんな天恵聞いたことありません!流石は勇者様です!」


 アリス王女があんまり褒めるもんだから、ユウもつい頬が緩みそうになる。このまま煽てて協力させようって腹は見え見えなのに、調子に乗ってしまいそうだ。


 ――超回復か。めちゃくちゃすげーじゃんか。つまりは怪我してもすぐに治るってことだよな。回復スピードはどんなもんなんだろ。超がついてるし遅いなんてことはないよな。


「それで、もうひとつの能力は?」


 ベルザムの問にローゼルは髭を触って答えた。


「言語理解はこの世界のあらゆる言語を理解、習得出来るようです」


 なるほど、と思う。だからユウは彼らと会話が出来るし、文字も読めるわけだ。


 ――ん?でも待てよ。一神達も王女達と会話が出来てるってことは、多分勇者組は全員言語理解の天恵を持ってるってことだよな。そう考えるとあんまり特別感が……。


「おお……なんと!?」


 突然ローゼルが叫んだ。

 ベルザムが尋ねる。


「どうしたローゼル」

「これは……これ程の才は見たことがない」


 大袈裟に反応を見せたローゼルが書き出したのは一神の天恵だった。


「まあ……こんなに沢山……それにどれも見たこともない天恵ばかり……!」

「まさかこれ程とは……」


 それを見たアリスやベルザムがあまりに騒ぎ立てるので、ユウも気になって一神の天恵が記された紙を覗き込んだ。


――――――――――――――――――――――

 〈一神光汰〉


・覚醒・聖剣召喚・剣聖・超感覚・超才技・成長・躍動・不屈・言語理解・マナ親和・魔術親和・精霊親和

・火の加護・水の加護・風の加護・雷の加護・地の加護・光の加護・闇の加護

――――――――――――――――――――――


 背筋が凍った。

 それ程にこの結果はユウを絶望させた。

 贔屓とかそういうレベルの話じゃない。女神はおそらく一神のファンか何かだ。そう考えるほかなかった。


「な、なんと言うことじゃ……」


 続いて桐山、星野、成村、の潜在能力を見てローゼルが随分たまげた様子を見せた。

 書き出された彼らの天恵を、ユウは恐る恐る覗き見る。


――――――――――――――――――――――

 〈桐山大河〉


・剛身・剛腕・狂走・成長・格闘才技・言語理解

・マナ親和・精霊親和

・火の加護・雷の加護

――――――――――――――――――――――

 〈星野愛風〉


・マナ親和・魔術親和・精霊親和・成長・言語理解

・神聖・火の加護・水の加護・風の加護

――――――――――――――――――――――

 〈成村千代〉


マナ親和・魔術親和・精霊親和・成長・言語理解

・火の加護・水の加護・風の加護・雷の加護・地の加護・光の加護・闇の加護

――――――――――――――――――――――


 ユウは言葉を失った。

 マナ、天恵、どれをとっても彼ら彼女らはユウとは比べ物にならない。中でもユウを絶望させたのは、星野が所有する天恵〈神聖〉だ。これは神聖術への適性を示す。

 そして神聖術は他者の治癒が可能であるらしい。そんなものがあるのなら、ユウの〈超回復〉なんて必要ない。寧ろ上位互換もいいところだ。


「皆様本当に凄いです!ねえベルザム!」

「ええ、正に規格外……これならば何れ魔王をも討ち倒すことが出来るでしょう」


 鬱になりそうなユウを他所に、王女もベルザムも騎士の軍勢も勇者達の能力に大興奮していた。

 ユウは何だかこの場所にいることが恥ずかしくなってきた。


「さて、これで全員の能力はある程度把握出来たな。その他の詳しい話は後だ。まずは陛下の元へ向かうぞ。早く報告をせねばならん」


 ベルザムはそう言うと、ユウ達を大広間から連れ出した。





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