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山本五十六の夢  作者: 竹本田重郎


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第2話 台湾航空隊

日本海軍の基地航空隊の中でも最精鋭と知られるは台湾南航空隊だ。本土が優秀という見方を覆している。彼らは国共内戦において共産党とソ連義勇軍を一方的に撃滅した。そのキルレートは非公式であるが世界記録と言われる。したがって、最精鋭の戦闘機と爆撃機、偵察機を装備することを認められた。それは最大級の称賛であると同時に死地へ赴くことを強いられる。偉大なる祖国とアジアのために死することは至上の名誉と胸を張った。




 台湾で生活していても国際情勢の激動は否が応でも理解させられる。大日本帝国が戦争へ向かっていることも口にこそ出さないがわかっていた。自分たちが死にかもしれないが望むところ。本土に残した家族たちが平和に生活できるならば命を捨てる覚悟を抱いた。地獄へ行けと命ぜられても進んで参ろうではないか。部隊の士気は旺盛を維持した。その練度と士気を買われて常に最新鋭の機材が提供される。本土から近いので直接の輸送が行われた。




 そんな機材の前で写真撮影である。これが自分たちの生きて戦った記録になるんだ。カメラが命を吸うなどオカルティズムは信じていない。それよりも記録を残しておきたく名もなき兵士たちは愛する祖国のために戦った。




「撮れました! 大丈夫だと思います!」




「いやぁ、急に呼んで悪かったなぁ。どうだ、飯でも食っていかんか」




「ありがとうございます。ぜひ、お願いします」




「俺は劉さんを食堂に案内してくる。お前たちは好きに過ごせ」




「はい!」




 軍の写真家よりも町の写真家にお願いする方が良いに決まっている。そこに修正が入ることはなかった。お金は渡せないので食事を奢ることでバーターにする。中隊長が広大な滑走路から食堂へ向かうのを見送った。もう肉眼ではわからない。そんなところで自分達の愛機へ駆け寄った。仮に機械でも訓練を共にしてきた故に愛着が生まれる。これまで欧米列強に劣ってきた。とある奇跡から質も量も急成長を続ける。ソ連機をバタバタと撃墜したことが自信を授けてくれた。もはや、イシャクとエスベーは敵でない。




「俺たちの次の仕事はアメ機をぶっ潰すことだ」




「最高じゃないか。ソビエト野郎は飽きたところでちょうどいい」




「あぁ、イシャクは歯ごたえが無かった。九六式で腕を鳴らしてきたが、今度の零戦は七味は違う」




「エスベーを追い越したときは笑ったな。おかげさまで攻撃法を見直したぜ」




「ありゃ笑ったなぁ。防護機銃の弾幕が追いつかないんだからね」




「まったく、まったく」




 若手の後方で優雅な姿を見せつけた。いかにも日本海軍の最新鋭機である。零式艦上戦闘機こと零戦が威風堂々をまとった。前身の九六式艦上戦闘機から爆発的な進化を遂げる。大馬力の空冷星形複列14気筒エンジンに推定100オクタンの人工ガソリンが高性能を叩き出した。最大1500馬力の金星エンジンに100オクタンのガソリンは鬼に金棒を誇る。当時としても余裕のある出力は何かと嬉しかった。機体を頑丈に設計できて防弾まで充実している。航空無線機も標準装備した。若手らしく荒っぽく動かしても何ら問題ない。




 満蒙国境線の国境紛争では陸軍の要請に基づいた。先行生産型という極初期型を飛ばしてみる。ソ連軍のI-15は赤子の手をひねるようだ。I-16も嘲笑するように叩き落とす。SB爆撃機は高速でブイブイ言わせた。奴らよりも数十キロは高速だぞと言わんばかりにピッタリと追従してから粉砕する。その圧倒的な性能は欧米諸国にも伝わった。当時はドイツ空軍のメッサーシュミットやイギリス空軍のハリケーン、スピットファイアが激闘を繰り広げる。日本の新型機は大したことはないと感知すらされなかった。




「ただよい。今度ぁは比島だろう?」




「そうそう。その訛りどうにかしろ」




「無理だぁ。そういう生きもんぁ」




「さっきより酷いじゃないか」




「比島は遠い。零戦は届くにゃ届くが航法を誤ったら…」




「確かに、そこは引き締めないとならん」




 今度の作戦地はフィリピンであることが共通認識となる。情報の秘匿はどうなっているんだと言いたかった。それだけ余裕があることの証明でもある。それはさておき、台湾からフィリピン北部まで直線距離にして約800kmから約900kmだ。零戦ならば十分に往復できるが航法を誤れば忽ち遭難する。台湾から中国の内陸部まで飛ぶだけで重労働なのだ。彼らはフィリピン北部の米軍基地を襲撃して制空権を確保することを課せられる。




「せめて誘導があれば楽になる…」




「あるぞ」




「うおっ! 急に出てこないでくださいよ!」




「小坂さん。大事なことを先に言ってくれるのはありがたいんですけど…」




「いつも通りだが」




「はぁ、寿命が縮む。それで誘導があるんですか?」




「フフフ…あれを見たまえ」




 ニュッと出てくるは技術士官の小坂一郎氏とみえた。海軍の技術士官として先端技術の電子兵装を研究している。研究と開発は本土で一貫したが現場でないとわからないことがあり、現場でなければ直せないこともあり、自ら海軍航空隊の基地まで赴くと寝食を共にした。整備員や搭乗員とも打ち解けている。しかし、無精髭を生やしているために落ち武者と誤認された。さらに、神出鬼没なのでギョッと驚かれる。本人は普段通りに過ごした。なぜか驚かれてしまう。白衣で目立つはずだが人間の感覚は意外と頼りなかった。




 零戦隊が台湾からフィリピンまで安全に飛行できる秘密兵器をニコニコの笑顔と共に指で示す。彼の無駄に太い指の先を見ていくと四発機が鎮座していた。それは誰もが見慣れた海軍の鳳号という輸送機にすぎない。武装兵士から野砲、エンジンなど大柄で大重量な物を迅速に運搬できた。中島航空機が冒険を回避し手堅くまとめたため、大型機の割に信頼性に優れており、緊急性の高い輸送任務を幾度となくこなす。




「あれが何ですか?」




「見た目じゃ分からんか。そりゃそうだな。これは失礼した」




「だから、何ですか?」




「戦略支援機だ。まだ名前はないが、私は『桜花』と呼んでいる」




「桜とはかけ離れちょります」




「別にいいだろうが」




「へい」




 大型輸送機の貨物室は電子機器を詰め込むに最適だった。元より重量物を積む設計なので電子機器が占めても飛行に支障をきたさない。重爆撃機よりも飛行の安定性や航続距離の長さに勝ることで抜擢された。メカニックから専門の教育を受けた電子戦のスペシャリストが乗り込む。




 機首と胴体に空対空と空対艦の電探を装備した。たった一機で海域や小国を支配することができる。各員が持ち場で電子機器が得た情報を分析して最終的に担当官が総合的な判断を下した。長距離用航空無線機を通じて攻撃隊を誘導したり、迎撃機を有利な位置へ置いたり、敵機隊と衝突しないように動かしたり、空の目はすべてを見透かす。




「職人的な技術ってのは認めているよ。もちろんね。でもね。時代は効率なんだ。皆のことは信じているけど、天候不順やエンジン不調、不慮の被弾からね。変わるじゃないか」




「大丈夫ですよ。色々と心配していただいて、ありがとうございます。アメ機の首を持ってきます」




「それは要らないね」




「要らないっすか」




「要らない、要らない。金髪の女の子ならもらうよ」




「そりゃ、俺も欲しいです」




 ブハハハハと豪快に笑い合った。人工石油がどうとかは関係ない。命を燃やした。いつ死ぬかわからない者たちが生きた証を友情に落とし込む。恐ろしくもくだらなかった。そんな会話もれっきとした記録である。誰かの記憶に残ってくれたら、それでいいのだ。どんなに国家と経済と生活が潤っても軍人が死地へ赴いて死ぬことは覆らない。せいぜい死にづらくなる程度だった。




「アメ公をぎゃふんと言わせてやりますから」




「あぁ、頼んだよ」




続く

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