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果てしなく長く凍りついた日  作者: 双鶴


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23/23

エピローグ 朝の光の中で

三上遼が目を覚ましたのは、

柔らかな朝の光が差し込む簡易ベッドの上だった。


昨日の夕方、

山中巡査長に肩を支えられながらベンチに座り、

そのまま意識を手放したはずだった。


目を開けると、

窓の外には静かな朝の空が広がっていた。


霧嶽は、

遠くに白い噴煙をわずかに残しているだけだった。


――朝だ。


その事実が、

胸の奥にゆっくりと落ちてきた。


身体は軽くなっていた。

だが、胸の奥にはまだ、

あの日の灰が沈んでいるような重さがあった。


扉が静かに開いた。


「……起きましたか」


山中巡査長だった。

制服は新しく、

表情には疲労の影が残りつつも、

どこか安堵があった。


「よく眠れましたね。

 十二時間以上、ぐっすりでしたよ」


三上は、苦笑した。


「気絶したみたいでした」


山中は頷いた。


「あなたが倒れたあとも、

 現場は続きました。

 でも……

 あなたが残した“声”が、

 俺たちを支えてくれました」


三上は、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「俺は……

 何もできなかった気がして」


山中は、窓の外の霧嶽を見た。


「できましたよ。

 あなたは“残した”。

 あの日を生きた人たちの声を、

 あなたの言葉が繋いだんです」


三上は、ゆっくりと息を吸った。


灰の匂いはもうない。

だが、胸の奥には確かに残っている。


――あの日の痛みは、消えない。

――だが、消してはいけない。


センターを出ると、

朝の空気が冷たく頬を撫でた。


救助隊の車両は片付けられ、

家族の姿も少なくなっていた。


だが、

あの日の声は、

まだ空気のどこかに残っている気がした。


数日後。

編集部に戻った三上の机には、

読者からのメールが積まれていた。


「現場の声が伝わった」

「涙が止まらなかった」

「亡くなった家族の“証”を残してくれてありがとう」


三上は、ひとつひとつ目を通した。


そのたびに、

胸の奥が痛んだ。


だが、その痛みは、

あの日の痛みとは違っていた。


――これは、前に進むための痛みだ。


大畑デスクが近づいてきた。


「三上。

 次の現場、行けるか」


三上は、画面を閉じた。


「行けます。

 ……書きます」


大畑は、短く頷いた。


「お前はもう、“現場の記者”だ」


三上は、窓の外を見た。


冬の空は澄んでいた。

霧嶽は遠くに見え、

静かに雪をかぶっていた。


あの日の灰は、

もうどこにもない。


だが、

あの日の声は、

胸の奥に残っている。


――忘れない。

――忘れさせない。


三上遼は、

ゆっくりとノートを開いた。


新しいページに、

静かに文字が落ちていく。


《あの日、山は静かだった。

 だが、人々の声は、

 今も私の中で生きている。》


ペン先が止まる。


三上は、深く息を吸った。


そして、

静かに書き足した。


《私は書き続ける。

 あの日を生きた人たちの声が、

 消えないように。》


朝の光が、

新しいページを照らしていた。


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