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果てしなく長く凍りついた日  作者: 双鶴


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22/23

第21章 交代の時

霧嶽高原センターの前に、

夕方の光が斜めに差し込んでいた。


噴火から一夜が明け、

すでに二十四時間以上が経っている。


だが三上遼には、

“昨日”と“今日”の境界がわからなかった。


眠っていない。

座っていない。

食べてもいない。


ただ、

書き、

見つめ、

聞き、

記録し続けていた。


そのとき、携帯が震えた。


「……三上か。大畑だ」


編集長の声は、

いつもより低く、硬かった。


「お前、現場に出てから何時間経った?」


三上は答えられなかった。

時間の感覚がなかった。


沈黙のあと、大畑は言った。


「交代しろ。

 これは編集長としての指示だ」


三上は、反射的に言い返した。


「まだ……書けます。

 まだ現場に……」


「書けるかどうかじゃない。

 お前はもう限界だ。

 倒れたら、誰が続ける」


三上は唇を噛んだ。


「……でも、まだ終わっていないんです」


「終わっていないからこそ、交代するんだ。

 いいな、三上。これは“業務命令”だ」


電話が切れた。


三上は携帯を握りしめたまま、

しばらく動けなかった。


――まだだ。

――まだ終わっていない。


そのとき、背後から声がした。


「三上さん」


山中巡査長だった。

昨日からずっと現場を指揮している男。

その顔にも深い疲労が刻まれていた。


「……編集長から連絡があったんですね」


三上は、かすれた声で言った。


「俺は……まだ残れます。

 まだ……」


山中は首を振った。


「残れませんよ。

 あなた、もう二十四時間以上起きている。

 足元もふらついている」


三上は、無理に笑おうとした。


「大丈夫です。

 俺は……記者ですから」


山中は、少しだけ目を細めた。


「記者だからこそ、休むんです。

 倒れたら……あなたの“声”が消える」


その言葉は、

三上の胸に深く刺さった。


「……でも……

 まだ終わっていないんです」


山中は静かに言った。


「終わっていませんよ。

 だからこそ、交代するんです。

 あなたが戻ってくるまで、

 俺たちが現場を守ります」


三上は、言葉を失った。


使命感が胸を焼いていた。

だが、身体は限界だった。


山中は続けた。


「あなたは昨日から……

 誰よりも“人”を見ていた。

 誰よりも“声”を聞いていた。

 もう十分すぎるほど戦ったんです」


三上の視界が滲んだ。


「……長い一日だった……」


山中は、静かに頷いた。


「ええ。

 でも、まだ終わっていません。

 あなたが戻ってきたとき、

 続きが書けるように……

 今は休んでください」


その言葉を聞いた瞬間、

三上の身体から力が抜けた。


ベンチに座ると、

そのまま前のめりに倒れ込むように眠りについた。


眠りというより、

気絶に近い“落ち方”だった。


夕方の光が、

三上の肩に静かに落ちていた。


――長い一日だった。

――だが、この物語はまだ終わらない。


霧嶽は、

夕暮れの空の下で、

静かに噴煙を吐き続けていた。


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