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果てしなく長く凍りついた日  作者: 双鶴


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第20章 届く声

昼下がりの霧嶽高原センターは、

朝よりも静かだった。


救助隊の無線は続いている。

だが、家族の泣き声はもう聞こえない。

涙が尽きたのか、

それとも現実を受け入れたのか。


三上遼は、ノートパソコンを閉じた。


記事は書き終えた。

だが、胸の奥にはまだ重いものが沈んでいた。


――これでいいのか。

――これが、俺の言葉なのか。


そのとき、携帯が震えた。


「……三上か。大畑だ」


編集部の空気が、

電話越しに伝わってくるようだった。


三上は、深く息を吸った。


「記事、送りました」


短い沈黙。


その沈黙が、

センターの静けさよりも重く感じられた。


「……読んだ」


大畑の声は、いつものように落ち着いていた。

だが、その奥にある“何か”が違っていた。


「三上。

 お前……変わったな」


三上は、思わず息を呑んだ。


「変わった……?」


「そうだ。

 文章が……“人”を書いている。

 数字でも、状況でもなく、

 そこにいた“人間”が見える」


三上は、言葉を失った。


大畑は続けた。


「今日の現場は地獄だろう。

 お前の文章には、その地獄があった。

 でもな……

 ただの悲劇じゃない。

 “伝えようとする意志”があった」


三上の胸の奥が熱くなった。


「……俺は……

 何もできませんでした」


大畑は、短く息を吐いた。


「できたさ。

 お前は“残した”。

 今日という一日を、

 誰かが忘れないように」


三上は、目を閉じた。


――山中さんも、同じことを言った。


大畑の声が続いた。


「三上。

 この記事は、今日の一面に載せる。

 お前の言葉で、

 この国に“現実”を伝える」


三上は、息を呑んだ。


「……俺の……言葉で……?」


「そうだ。

 お前の言葉でだ」


電話の向こうで、

編集部のざわめきが聞こえた。


「三上。

 お前は今日、

 本当に“記者”になった」


その言葉は、

山中の言葉と重なった。


胸の奥で、

何かが静かに灯った。


「……ありがとうございます」


大畑は、短く笑った。


「礼はいらん。

 だが、覚えておけ。

 “伝える”というのは、

 時に自分を削る仕事だ」


三上は、ゆっくりと頷いた。


「……わかっています」


「ならいい。

 現場はまだ動いているんだろう?

 続報を頼む」


電話が切れた。


三上は、携帯を握りしめたまま、

しばらく動けなかった。


外では、

救助隊の車両が再び戻ってきた。


ストレッチャーが運ばれ、

毛布がかけられ、

静かにセンターへと運ばれていく。


三上は、深く息を吸った。


――書くことが、俺の呼吸だ。

――そして、今日の痛みも、その呼吸の一部だ。


ノートパソコンを再び開いた。


画面の白い光が、

灰の舞う空気の中で揺れていた。


三上は、指を置いた。


――続けよう。

――この一日を、忘れさせないために。


静かな決意が、

胸の奥で確かに灯っていた。


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