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果てしなく長く凍りついた日  作者: 双鶴


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第19章 静かな余韻

昼前の光が、霧嶽高原センターを照らしていた。


朝の冷たさは残っている。

だが、夜の闇とは違う。

光は、痛みを隠さず、

すべてをそのまま照らし出していた。


三上遼は、センターの外に立っていた。


救助隊の無線は続いている。

新たな“発見”が報告されるたび、

センターの空気がわずかに震えた。


だが、三上の耳には、

その音が遠く感じられた。


――書いた。

――だが、終わったわけではない。


胸の奥には、

まだ重いものが沈んでいた。


山中巡査長が近づいてきた。


「……記事、読みました」


三上は、驚いて振り返った。


「え……いつの間に」


山中は、疲れた顔のまま、

しかしどこか柔らかい表情で言った。


「救助隊の合間に、少しだけ。

 ……いい記事でした」


三上は、言葉を失った。


山中は続けた。


「数字じゃなくて、

 “人”が書かれていた。

 今日を生きた人たちの声が、

 ちゃんとそこにありました」


三上は、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「……でも、

 俺は何もできなかった」


山中は首を振った。


「できましたよ。

 あなたは“残した”。

 今日という一日を、

 誰かの心に残る形にした。

 それは……

 俺たちにはできないことです」


三上は、ゆっくりと息を吸った。


灰の匂いが肺に入り、

胸の奥が痛んだ。


だが、その痛みは、

もう逃げたい痛みではなかった。


センターの前では、

家族が静かに寄り添っていた。

泣き声はもう聞こえない。

涙が尽きたのか、

それとも、現実を受け入れたのか。


救助隊の車両が戻ってきた。

ストレッチャーが運ばれ、

毛布がかけられ、

静かにセンターへと運ばれていく。


三上は、その光景を見つめながら思った。


――この一日は、終わらない。

――だが、終わらせてはいけない。


山中が、空を見上げた。


霧嶽は、

昼の光の中で、

黒い噴煙を細く吐き続けていた。


「……三上さん。

 今日を忘れないでください。

 俺たちも忘れません」


三上は、ゆっくりと頷いた。


「忘れません。

 忘れないために……

 俺は書き続けます」


その言葉は、

決意というより、

“静かな呼吸”のようだった。


山中は、微かに笑った。


「それでいいんです。

 それが、あなたの仕事です」


三上は、センターの外に立ち、

霧嶽を見上げた。


灰が舞い、

光が揺れ、

山は静かにそこにあった。


――この一日を、忘れない。

――そして、伝え続ける。


胸の奥に、

静かだが確かな“灯り”がともった。


それは、

痛みとともに生まれた、

三上遼の“決意”だった。


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