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果てしなく長く凍りついた日  作者: 双鶴


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第18章 言葉が形になる時

霧嶽高原センターの一角。

三上遼は、ノートパソコンの前に座っていた。


外では、救助隊の無線が断続的に響き、

家族の嗚咽が風に乗って揺れていた。

朝の光は冷たく、

灰は静かに降り続けている。


だが、三上の視界には、

画面の白い光しか映っていなかった。


――書かなければならない。

――この一日を、忘れさせないために。


指が、ゆっくりと動き始めた。


《霧嶽噴火。

 夜明けとともに再開された救助活動は、

 最初の“発見”をもたらした。

 だが、それは希望ではなく、

 現実の重さだった。》


文字が画面に並ぶ。

そのたびに、胸の奥が軋む。


三上は、深く息を吸った。


《センター前で、

 家族の女性が崩れ落ちた。

 「昨日、電話したばかりだった」と

 震える声で繰り返していた。

 その声は、

 朝の光よりも冷たく、

 噴煙よりも重かった。》


指が止まる。


胸の奥が痛い。

だが、その痛みは、

言葉を生むための痛みだった。


「……三上さん」


山中巡査長が近づいてきた。

顔には疲労が刻まれ、

目の奥には深い影があった。


「書けていますか」


三上は、画面から目を離さずに答えた。


「……書いています。

 でも……

 書くたびに、胸が痛いんです」


山中は静かに頷いた。


「痛いのは、

 “人の痛み”を見ているからです。

 それを感じられる人間じゃなきゃ、

 伝えることなんてできません」


三上は、ゆっくりと目を閉じた。


――伝えることは、救いではない。

――だが、逃げることもできない。


再び指が動き始めた。


《山は静かだった。

 噴煙は薄れ、風は止まり、

 朝の光だけが、

 失われた命の上に落ちていた。

 その光は、

 温かさではなく、

 ただ“現実”を照らすだけの光だった。》


文字が積み重なっていく。


そのたびに、

胸の奥で何かが崩れ、

同時に何かが形になっていく。


山中が静かに言った。


「……三上さん。

 あなたの言葉は、

 今日を生きた人たちの“証”になります」


三上は、画面を見つめた。


そこには、

数字ではなく、

“声”があった。


《この一日は、

 誰にとっても終わらなかった。

 夜が明けても、

 光が戻っても、

 痛みは消えなかった。

 だが、

 その痛みを伝えることが、

 私たちに残された唯一の仕事だ。》


指が止まった。


三上は、ゆっくりと息を吐いた。


――書けた。

――これは、俺の言葉だ。


山中が、静かに微笑んだ。


「……いい記事になりますよ」


三上は、画面を閉じなかった。

閉じる必要がなかった。


その文章は、

今日という一日の痛みと、

自分自身の痛みと、

そして“伝える”という決意が

すべて詰まったものだった。


外では、

救助隊の無線が再び震えた。


「……第二班、火口縁に到達。

 新たな発見を確認……」


三上は、画面を見つめたまま、

静かに息を吸った。


――この一日は、まだ終わらない。

――だが、俺は書き続ける。


その確信が、

朝の冷たい光の中で静かに灯っていた。


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