6-(3) 夢の終わり * 6-1 私を変えてくれた人
僕は、列車に随分と長い事揺られる事になった。そんな訳だからか、気づけば先程テオと話した会話について思いを巡らせていた。その会話というのは、アンナの好きな銀の鳥の童話についてである。
有名作にはよくある事ではあるのだが……どうやら今主流の銀の鳥の内容は、原作とはかなり改変されているらしかった。テオは、その童話の、あまり知られていない原作の事や、内容改変の成り行きについてまで、詳しく知っていた。
「世に出ている物語は、漁師が銀の鳥を愛し、それにより仕事や人間関係も円満に行き、二人でいつまでも幸せに暮らしたという風に綺麗に幕を閉じている。だが、その終盤は原案とは全く別物に仕上がったものだ。
童話の原案者は、物語が世に出る前に亡くなっており、現存する童話は、故人が残したメモ書きの内容に彼の兄弟が手を加えたものである。その兄弟というのは、故人の精神的な危機を認知していたにも関わらず放置していたらしく、それにより責任を感じ物語を完成させることで贖罪をしたかったという。あくまで、伝承ではあるが。
そして、原案のクライマックスはこうだ。薄弱な猟師は、身に余る程の幸福を一身に受け、やがてその甘美な幸福に沈溺するあまりある過ちを犯してしまう。銀の鳥を、食してしまったのだ。
そう、猟師は、当初切望してしたように、愛していた銀の鳥を永久の幸福の証として、その身に宿そうとした。猟師は美しい銀の鳥だけでなく、更なる幸福を渇望していた。
だが、そんな猟師が享受した幸福は、一時のものでしかなかった。いや、幸福というよりも、悦楽と言った方が正しいかもしれない。鳥をその身に宿したと錯覚した猟師は、初め、昂りのあまり野山を駆け回った。恋焦がれていた幸福、追い求めていた永久の愛。自分はもう虚しさと惨めさとは無縁な人間となったのだ、と心の中で叫び続けた。仕事もそれまで以上に捗った。
だが時が経つにつれ、猟師を満たしていた喜悦は錆びていった。自身の内側が冷えていく感覚に耐えきれなくなった猟師は、寂しさと焦燥から自身の中で見守る愛しき銀の鳥を確かめようとした。ナイフで手首を切った。赤い血が流れ出てくるのみ。一向に銀の鳥の気配を感じないことに痺れを切らした猟師は、自分の右目をくり抜き、空いた暗闇の奥で輝く銀の光を見ようと、激痛を気にする余裕もなく鏡を覗いた。
そして、鏡に映った自身の姿を見て、猟師は呆気に取られた。唇は乾燥し、肌は荒れ、頬は痩け、片目からは赤黒い血を流し、もう片方の濁った目でこちらを見つめる貧相な男が、そこにいた。それまで白昼夢に溺れていた猟師は、自分の姿が想像とあまりにも掛け離れていた事実の前に、崩れ落ちてしまった
そしてもう一つの現実が突如として猟師の頭に舞い降り、猟師の核は打ちのめされた。銀の鳥は、自分の中に宿ってなどいなく、一人の人間の浅ましい傲慢に呑まれ、永遠に姿を消したのだ。その受け入れるには酷すぎる事実は、亀裂の入った猟師の精神に死の息吹を吹きかけた。
結局、猟師は最期まで、幸福を求めている限り真の幸福を手にすることなどできないことに、気がつけなかったのさ」
テオは、語り終えたかと思うと、もの寂しげに続けた。
「……後の童話が、原案と打って変わり幸せに満ちた終わりだったのは、友人の原作者に対する愛からくるものだったのかもしれないな。もしあの原案が原作者の辿った道であるならば、友人は、彼が少しでも幸せな夢を見れることを祈っただろう。こんな、彼の人生もあったかもしれないとね」
そのテオの言葉を聞いた僕は数秒間無言だった。
そして、しばらくした後、胸中に群がる気持ちの悪い靄に苛まれながら、彼に反論した。
「……確かに、それは美しいことかもしれない」
口にした途端、それまで混沌としていた僕の精神が嘘のように研ぎ澄まされていくのがわかった。だが、その鋭利な感覚は、決して僕にとって優しく心地よいものではなかった。むしろ、自分自身の心臓を削っているかのような息苦しさと苦痛を伴っていた。
「……でも、そう思うからこそ言うよ。もしもの話なんて、もしもの世界なんてありはしない。どんなに願ったって、現実とは別の歴史など存在しないんだ。いや、存在してはいけないんだよ。人の歴史は一つだけだ。全ては一直線上にしか存在しない。……だって、その事を強く認識しなきゃ、人は逃げてばかりになる。後悔から都合の良い理想の世界を創りあげるなんて、自分の罪から目を背ける事と同じだ」
僕がそう答えると、テオは、非難するでもなく、何やら感心したような表情となった。
「君は歳に比べてたいそう真面目だね。でも、何でもそんなに深刻に捉えていても疲れるだろう? 僕はむしろ自由を愛する人間だからね。どうせなら、ルーカス君にも自由の幸福というものを味わってもらいたいものだよ」
「僕に自由なんかいらないよ。というより、元から自由なんか無かったんだ」
テオは、僕の深刻な眼差しを見やると、鞄から何かを取りだして、僕に見せた。それは、アルバムだった。彼は、アルバムをパラパラとめくり、様々な風景の写真を見せてくれた。
「これらは全部僕が撮ったんだ。自分で言うのもなんだが、なかなかに良いもんだろう?」
僕は、気がつけばそれらの風景に魅入っていた。日差しの射す森、大自然の中で降り注ぐ滝、どこか物悲しい夕焼け空。確かにこれらの自由は、美しかった。
「もしかして気に入ってくれたのかい? なら、今度一緒に旅にでも行ってみないか? 君にはもう少し開放的な体験が必要だ」
「ありがとう、その心遣いには感謝するよ。でも、今僕は遠くへは行けないんだ。だから、気持ちだけ受け取っておく」
僕がそうテオの申し出を断ると、彼は、にこやかな笑みを見せた。そして、「じゃあ、今じゃなくてもう少し経ってからにしようか」と笑った。
思い返してみれば、僕の「今僕は遠くへは行けない」という言葉はとてつもない失言だったかもしれない。それも、もしも僕の予想が当たっていればの話だが――。
そんなふうにぼんやりとした不安感に囚われているうちに、列車は家への最寄り駅に到着した。
僕は、未だ憂鬱な気分を振り払えないまま、帰路に着いた。すると、居間からカーヤが飛び出してきた。そこでお土産について思い出し、スーツケースから鳥のぬいぐるみを取り出した。それをカーヤに渡すと、彼女はとびきりの笑顔で喜んでくれた。
すると、アンナが部屋から出てきた。彼女を見るなり、心臓が張り裂けそうな程の緊張が全身を駆け巡る。脳裏にテオの顔が浮かんで離れない。
それでも僕は、スーツケースからぎこちなくある物を取り出し、無言でアンナに手渡した。それは、鳥の模様が拵えられたリボンのヘアアクセサリーだった。
普段、アンナは最低限の清潔感さえあればいいと言って女の子らしい服装をした試しがなかった。もちろん、服装は個人の自由なので価値観を押し付けるつもりなど毛頭ない。だが、ほんの僅かに、このリボンをつけた彼女の姿を見てみたいと思ってしまったのだった。
アンナはリボンを受け取るなり、「これ、私に?」とでも言いたげに怪訝そうに僕を見た。僕は、いったい何を言えば良いのか分からなかったので、とりあえずにこりと微笑んでみせた。自分でも笑顔が硬くなっている事が分かるのが辛かった。
アンナは、しげしげとリボンを眺めた後、顔を上げた。
「ありがとう。なんでこれをチョイスしたのかはよく分からないけど、嬉しい」
アンナは、そう言って少し笑った。
彼女のその笑顔により、僕の中で渦を巻いていた様々な懸念は、幾分か薄らいだ。
その日、夢を見た。
僕は思念体のような何かだった。それでも、そんな形のない僕を必死に求める声が聞こえてきた。具体的にどのような事を言ってきたのかは覚えていないし、夢の中でもあまり判然としなかった。だが、確かに僕を強烈に求めている事だけはわかった。そして、僕の心臓も、それを感じ取るなりはち切れそうな程に締め付けられた。
それはまるで魂と魂が惹き付け合うようだった。
そして、切ない感情が込み上げる中、たった一つだけ、聞き取れる言葉があった。
「おとうさん」
その言葉を皮切りに、僕の意識は覚醒した。さして気がかりになるような悪夢の類ではないにも関わらず、妙に心がざわついた。
大学に向かう途中も、講義を受けている途中も、心は晴れなかった。それはおそらく、先日出会ったテオの存在と、今朝見た夢が原因だろう。教授の話している内容もほとんど頭の中に入ってこず、ひたすらに憂鬱な時間が過ぎ去るのを待ち続けた。
大学が終わると、カーヤと読み書きの練習をし始めたばかりの頃、利用していた公園へと向かった。カーヤとの思い出が存在する、ひときわ奥に設置されたベンチに腰掛ける。太陽の光に照らされる湖面を前に、僕は鞄からスケッチブックとペンポーチを取り出す。
描くものは決まっている。もちろんキノコだ。キノコの描画こそ、僕にとって最もよく効く精神安定剤だった。だが、いかんせん雑念が多すぎる故、中々集中する事ができない。その証拠に、スケッチブックには、まだ五つのキノコしか描かれていない。それも、それぞれの個体の陰影がいまいち上手くない。
これは、間違いなく今の僕のセンスが鈍っている事を意味している。そこで、キノコの描画のセンス等、自慢にもならないだろうと思われるかもしれない。
だが、キノコは、描くとなると非常に頭を使い、それこそ陰影なんかは技術とセンスが求められる。何より、(これはキノコの描画だけでなく他の事にも言えるが)一つの物事に集中する事によって、精神が統一される。これはもう、自慢できる要素の一つと言っても良いだろう。
そんなくだらない事に思考力を割いている余裕があるくらいならば、さっさとキノコを描け! そうもう一人の自分が叱咤してきた為、僕はシャープペンシルをスケッチブックの紙面に軽く当てた。だが、やはり描く気力が湧いてこない。
そんなふうに悩んでいたら、非常に聞き慣れた声が耳に届いた。
「るーかす! やっぱりここにいたんだ!」
背後を振り返れば、カーヤがこちらへ走りよってきていた。
「どうしたんだ、アンナは一緒じゃないのか?」
カーヤは、僕の元へと駆け寄りながら答える。
「一緒じゃないよ! あんなは、今日はちょーこくしてたいって言うから置いてきた!」
そう言い終えると、カーヤは僕の隣にちょこんと腰掛けた。そして、僕のスケッチを興味深げに覗き込んできた。
「るーかす、やっぱり絵がじょうずだね。ねぇ、どうしてそんなによくキノコを描いてるの?」
そのカーヤの問いに、こうしていると心が安らぐんだよ、と返した。するとカーヤは、自分も描いてみたいと言い出した。僕は、スケッチブックの一ページを破り、それと鉛筆を彼女に手渡した。
だが、カーヤは中々描き始められないでいた。どうやら何をどう描こうか悩んでいる様子だった。まるで今の僕と同じ状況だな、なんて心中で笑いながら、「好きなものを好きなように描いてみたらどうだ」と少しばかり助言してみた。
カーヤはベンチに紙を置き、まずはアンナを描いた。次いで髪の長い女性のような絵を描き始めた。それは、時折訪問しにやってくる金髪の少女、ホルテとは似ても似つかなかった。という事は、僕が知らない人間か、それともカーヤの読む本に出てくる登場人物だろうか。現実的に考えて、おそらく後者だろう。
「今描いてるのはいったい誰なの?」
そう質問すると、カーヤは元気いっぱいに答えた。
「まま!」
その答えに、僕は「そっか」としか反応できなかった。何より、僕はカーヤの正体とやらをよく知らない。故に彼女の言う母親とやらも知らない。
思い返してみると、カーヤは本当に摩訶不思議な存在だ。アンナが気味悪がるのも無理はない。だが、どうしてか僕は、そんなカーヤに対して嫌悪の類の感情を一切覚えない。こんなに素直で無邪気な子なんだ、たとえ正体不明だろうと、あるいはその正体が妖精だか悪魔だか霊の類だろうと、これからも僕はカーヤとの時間を大切にしたい。
そう経たないうちにカーヤの絵は完成した。そしてカーヤは僕に二人の女性が描かれた紙を手渡した。
「どう? どっちも似てるでしょ」
カーヤの描いた絵は拙いものの、彼女本来の純粋さが現れている可愛らしい絵だった。それも、見ていて思わず和んでしまう程に。
「うん。アンナにとっても似てるし、ママもきっとこの絵にとっても似ているんだろうね。僕はカーヤのママの事は知らないから、うまくは言えないけど、素敵な絵な事に変わりはないよ」
そう本心から答えると、カーヤは不思議そうに目を瞬いた。そして、無垢な口を開いた。
「もしかしてままがどんな見た目してたか忘れちゃった?」
僕は、そのカーヤの突拍子もない質問に若干戸惑いながらも、残念だけど僕は君のママに会ったことは無いんだ、と、改めて返答した。
だが、カーヤはどうもそんな僕の返答が気に入らないらしかった。いや、というよりかは、不思議でたまらないといったふうだった。
「どうしてそんな嘘つくの?」
と、カーヤは更に質問を重ねてきた。カーヤの純粋な心を傷つける罪悪感を覚えながらも、「本当に僕は君のママを微塵も知らないんだ」と、どうにか宥めようと考えた。だが、僕は瞬時に彼女は寂しいんだと判断した。
「ああ。君のママはこの絵みたいに、優しそうで素敵な人だったよ」
その返答に、カーヤは嬉しそうに笑った。その笑顔に、ほっと胸に安堵が広がった。
「まったく、るーかすったらうそつきなところもあるんだね。なんで嘘ついたのかは分からないけど、ままのこと覚えててくれてうれしい。一瞬、ほんとに忘れちゃったのかと思ったもん」
そのカーヤの発言に、僕は僅かに眉を顰めた。そして、急速に嫌な予感が辺りを包んだ。僕は気がつけば、金縛りにでもあったかのように動けなくなっていた。
「わたしね、ままの大好きだった言葉、覚えてるんだよ!」
カーヤは、嬉しそうにある言葉を紡いだ。
それは確かに、聞き覚えのある言葉だった。そして、先程から僕の内側を支配していた重しの正体を示すものでもあった。
“鳥はたとえ飛べなくても、綺麗な翼を持っている”
「意味はよくわからないけど、ステキな言葉だよね!」
手にしていたカーヤの絵が地面へ落ちる。
「それからこれも覚えてるよ。あんなみたいに、るーかすのこと、えどがーって、よく呼んでたよね!」
僕の頭は数分間真っ白だった。だが、徐々に現実という名の罪が迫ってきて、それらからの逃亡を諦める事を余儀なくされた。
僕は、ベンチからふらふらと立ち上がった。そして目の前の柵を乗り越えようと、柵から身を乗り出して眼下の湖面を見下ろす。すると背後からやけに嬉しそうな声が聞こえた。
「もしかしてるーかす、やっと死ぬの?」
僕は、「ああ」とだけ答えようと僅かに口を開いた。だが、瞬時にそれは許されない事だという事実が、口から音を発するのを禁じた。
僕には逃げるという選択肢をとる事が許されない。僕には責任がある。
それはもちろん、僕による裏切りによって、カーヤという哀れな存在を生み出してしまったという事もだ。だが、それと同等の罪をこれまで積み重ねてきたというのもまた事実だった。
これまで自分の罪滅ぼしの為にアンナを利用してきた事。そして、そのように独善的に彼女を扱った癖に、いつしか一人の人間として好いてしまうようになった事。それに何より重大なのが――僕の殺人により、彼女の人生を狂わせてしまった事。
それらが全て事実として存在する限り、僕は生きて罪を償わなければならない。
僕は、死んだ心地で帰路に向かった。
* * * * * * *
自分が狂人であるという事を、自覚させてくれた人がいた。そしてその上で受け入れてくれた人がいた。その人は心配するくらいのお人好しで、いつも何かとかけては私の事を気づかってくれた。
その人と同じ時間を過ごしていくうちに、私は自分自身が妙に変わっていくのを感じていた。あれ程人間嫌いだったにも関わらず、今では人間という種への嫌悪感はほとんどなかった。あれ程血液を求めていたにも関わらず、今ではそこまで興味がわかなくなっていた。それよりも、他人の内側をもっと知りたいと思うようになっていた。
というのもルーカスは、基本的に優しいのだが、どこか世界の外側に存在しているかのような雰囲気を纏っているからだ。まるでこの世界に完全には心を開いていないみたい。いや、もしかしたら、今となっては私よりも――。
そんなふうに彼の事を案ずる日々が続いた。
私は、いつの間にかこの変化を受け入れている。その事実を認識すると、不思議な感覚に陥った。これまで変化は嫌いだった。でも、今は違う。変わってゆくことは残酷であると、私は心のどこかで感じていたにも関わらず。
けれど、現状の大きな変化はあまりにも受け入れ難い。というのも、ある日を境に、私を変えてくれた人が、大きく変わってしまったのだ。あんなに毎日私やカーヤとコミュニケーションをとっていたのに。まるでそれが楽しくて、幸せで仕方ないといったふうだったのに。
何故か彼は、もう数日部屋から出てきていない。私がノックをしても、扉越しに声をかけても、何も反応を示さない。さすがにこれは深刻な状態であると判断し、「医者を呼んでこようか?」と声をかけた。するとその時だけ、応答があった。
「君は何もしないでいい」
その声は普段よりも冷たく感じ取れた。
私は、いつか彼がしてくれたように、朝昼晩になると部屋の前にご飯を用意しておいた。それしか、私に出来る事はなかった。私は一応殺人犯な為、安易に他者と関わる事ができないのだ。おそらく彼は、それを考慮してくれた上で、ああ言ったのだろう。
そうは分かっているのに。なのに何故か、あの言葉を思い出す度に心が冷えていくようだった。涙が出てしまいそうになった。
もしかして私は、彼に本当に嫌われてしまったのだろうか。そう思い悩み続ける、地獄のような日々が数日続いた頃に、彼はやっと部屋から出てきた。私は彼のあまりの変容ぶりに驚愕した。穏やかだった瞳は虚ろに、暖かかった眼差しは冷たいものに変わっていた。まるで生気を感じ取る事ができなかった。
そして、彼は――ルーカスは、重苦しく口を開いた。
「君に話しておかなければならない事があるんだ」
そう言ってルーカスは、私を彼の部屋へと招いた。質素な彼の部屋は、思っていたよりも清潔に保たれていた。彼と私は、床に真正面に座った。
いつかの光景が思い出された。それは私が、自分の罪を自白する時の光景。あの時の私は、なるべくルーカスに目線を合わせるように努めたが、今目の前にいるルーカスも、同様である。その事から察した。ああ、彼もようやく隠し事を話してくれる気になったのだと。
私は、これからルーカスが語る内容がどのようなものであれ、心の底から受け止めようという心持ちだった。
そして彼は、虚ろな瞳を私の目線よりやや下にやって、語り出した。
次回から、過去編に入ります。全5話予定。




