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2章4 過去から来た旦那さん
雨の季節の終わりが近い。
二人で霞のかかった公園に向かう。朝の光に包まれた風景はどこか儚げで、別れを告げるにはあまりにも静かすぎた。
杏里さんは立ち止まり、耳元でそっと囁く。
「いつか、私を助けに来てね」
そう言って手渡されたのは、彼女が徹夜で作ったという特製のお守り。ぎこちない縫い目に彼女らしさがにじんでいる。
最後に抱きしめて、短く、けれど確かに思いを込めたキスを交わす。
次の瞬間、旦那さんの姿は霧の中に溶けて消えていった。
――その日の夕方。
同じ公園に、今度は“元の時代の旦那さん”として戻ってくる。
「ただいま、杏里さん」
「おかえり、旦那さん」
再び抱きしめ合い、再会を分かち合う。互いの鼓動が重なる中で、杏里さんは心の奥で静かな覚悟を抱いていた。
「ねえ、旦那さん。私は不死身だけど……あなたが生まれ変わっても、また見つけてあげる。何度でも恋をする。だから、とても幸せだし、楽しみなんだよ」
その言葉を聞いて、俺は深く頷いた。
その想いを――決して忘れないと胸に刻みながら。