2章2 過去から来た旦那さん2
駅前の商業施設は、休日の人混みでにぎわっていた。
杏里さんに連れられて歩きながら、俺はスマホを手にして操作を教わる。
「ここをタップすると、近くのスポットに行けるんだよ」
「へぇ……すごいな」
普段は友達とゲーム機を持ち寄って遊んでいた俺にとって、現実の街そのものがゲーム盤になる感覚は新鮮だった。すぐにルールを覚え、夢中になっていく。
「未来のゲームって、現実を遊園地みたいに変えられるんだね」
俺の言葉に、杏里さんはふっと微笑んでうなずいた。
やっぱり、旦那さんだなあ)
スマホを持って目を輝かせる彼の姿に、自然と頬がゆるむ。
純粋で、初々しくて――でも、それが懐かしいほど愛おしい。
今回は年上の自分がリードする番。少し母性的な気持ちを抱きつつ、姉の立場で見守る。
そんなつもりでいるのに、気づけば胸の奥がじんわりと温かくなっているのだった
夜の公園。帰り道の静けさを破るように、突如として陰陽師が姿を現した。
「今度こそ俺のものになってもらうぞ!」
いかにもな悪役めいた台詞に、杏里さんはうんざりとした表情で吐き捨てる。
「何度言わせるの。あなたなんかに付き合う気はないって」
だが、陰陽師は用意していた伏兵を呼び出した。姿を現したのは、術に操られた暴漢たち。杏里さんには「一般人には手を出せない」という制約がある。彼女の眉がわずかに曇る。
「じゃあ、俺が相手するよ」
俺はわざと挑発的に声を張り上げ、暴漢たちを狭い路地へと誘導する。
胸ぐらを掴まれた瞬間、体が自然に動いた。
回転投げ――相手の体が宙を舞い、背後の仲間へぶつかる。さらに間合いを詰め、入り身投げで二人目を地面に叩きつける。最後の一人も、怯んだ隙を突いて動きを封じた。
荒い息を吐いたときには、暴漢たちは戦意を喪失していた。
その背後で、杏里さんが陰陽師を片付け、駆け寄ってくる。
「……必要なかったかー」
小さく息を吐きながらも、回帰札をぴらぴらとなびかせる。彼女の表情には安堵が浮かんでいた。
⸻
杏里さん視点
駆け寄ったとき、破れた服の隙間からふと目に入ったものがあった。
――肌に残る、淡い痕跡。
思わず心臓が跳ねる。
(……やっぱり、旦那さんなんだ)
確信と共に胸の奥が熱を帯びていく。鼓動が早まるのを止められず、言葉にならない思いが胸に溢れていた。
回帰札は回復アイテムです。
後でまた出てきます。