4章3 S市事変①
鳥居の影から、陰陽師が現れた。
「やはりいたか、妖狐の依代……」
忌々しげな視線を杏里へ投げる。
杏里は肩をすくめ、ため息を吐いた。
「またあんた? 本当にしつこいんだから」
陰陽師が印を切ると、地面から黒い靄が溢れ出し、呪霊たちが姿を現した。
旦那さんは立ち上がり、血刃を構える。
「杏里さん、正面は任せます。俺は雑魚を散らします」
「任せたよ。――すぐ終わらせる」
次の瞬間、空間が揺らいだ。
杏里が手を振ると、呪霊たちは一斉に痙攣し、その場に崩れ落ちる。
テレポートで陰陽師の背後を取り、掌底を叩き込む。
旦那さんもシリンジガンで血弾を放ち、残った呪霊を撃ち抜く。
弟くんを憑依させた身体は軽く、雑魚相手には十分だった。
陰陽師は結界札をばら撒き、必死に距離を取る。
杏里は動じず、一歩、また一歩と詰め寄っていく。
「もうやめなよ。何度やっても結果は同じ」
冷えた声に、陰陽師は歯ぎしりし、煙のように姿を消した。
旦那さんは肩で息をしながら夜空を見上げる。
「……やっぱり、杏里さんは俺なんかよりずっと強い」
隣で微笑む彼女に、月明かりが落ちる。
その笑顔にようやく安堵を覚えた――その時。
境内の片隅、誰もいないはずの闇がゆらりと揺れた。
鳥居の影が伸び、石畳を這うように近づいてくる。
冷たい風が背筋を撫で、狐像の瞳が一瞬だけ赤く光った気がした。
旦那さんは気づかない。
杏里も気づかない。
ただ、影だけが、確かに彼女の背後へと忍び寄っていた。
――次の瞬間、境内に低く笑う声が響いた。




