4章1 黒を纏う少女
語り部:???
――走って、逃げて、気がついたらここにいた。
あの陰陽師の冷たい視線が、まだ背中に焼き付いている。
私を造った張本人。黒い札と術式で縛り付け、「黒のA」と番号で呼んだ。
名前なんてなかった。ただの道具。ただの呪い。
でも――私は拒絶した。
「お前のものになるくらいなら、消えた方がマシ」
そう思った瞬間、足は勝手に動いていた。封じられた記憶の奥から、懐かしい街並みが浮かんできて。
そこに向かえば、きっと“あの人”に会える気がした。
気づけば、私はS市の路地裏に立っていた。
人のざわめき、街灯の光。どれも眩しすぎて、幻のように揺れて見える。
――そうだ。あの女、杏里。私の“元”が過ごした街。
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
彼女は光を持っている。
だから私は、影になった。
光に嫉妬して、奪いたくて、でも近づきたくて――そんな矛盾を抱えたまま、ここまで来てしまった。
「……見つけたら、どうすればいいんだろう」
呟いても、答えは返ってこない。
ただ一つ分かるのは、彼女を前にしたら、私はもう立ち止まれないということ。
――杏里。
あなたがいたから、私は生まれてしまったんだ。