9章26 復活
――クロエの精神世界に潜った時、俺は気づいた。
あの闇の奥で、弟くんの魂が確かに“まだそこにいる”ということを。
消えたわけじゃなかった。
融合の瞬間、彼の意識の一部がクロエの中に残っていたんだ。
思い返せば、あのイタコ修行がきっかけだった。
憑依術の才能は結局、俺にはなかった。
だが、ひとつだけ妙に馴染んだ術があった。
――依代を通して声を響かせる術。
「これは……魂の残響をスピーカーにする術じゃな。戦いの中では、役立つこともあろう」
老巫女の言葉に、当時の俺は半信半疑だった。
だが今なら分かる。あれは、“魂の声”を外の世界へ響かせるための橋渡しの技だったんだ。
クロエの中に微かに残った弟くんの残響を拾い、その波を形にしてやれば――
声として再現できるかもしれない。
俺は、依代を象徴するオオカミのぬいぐるみに術式を刻んだ。
これなら、弟くんが宿ったままでも“声”だけは外へ届かせられる。
完璧な復活ではない。だが、確かな“在り方”だ。
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その夜、ぬいぐるみがぽうっと光った。
「……やあ、兄さん。みんな、久しぶり」
柔らかな声が部屋に響く。
杏里が息を呑み、クロエが目を丸くし、ルミナスが静かに微笑んだ。
俺はただ、笑って頷くしかなかった。
――ようやく、帰ってきたんだな。




