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プロローグ


S市のとある神社――そこは有名な稲荷神社で、境内には整然と並ぶ狐の像が並び、不思議な空気が漂っている。


その日、境内を歩いていたのは杏里。古着屋やショップで揃えたお洒落な服に身を包み、アシンメトリーを意識したゴシック調の装いは、まだ「自分らしさ」を探している年頃を感じさせた


杏里は友達と映えスポット巡りに夢中になっていたが、途中で別行動を選び、一人で神社を歩いていた。


だが、その神社にいるはずのない存在が、杏里に狙いを定めていた――妖狐だ。


俺は偶然、その現場に居合わせていた。

妖狐は俺の体から漂う匂いに惹かれ、肩口に噛み付こうと襲いかかる。しかし、俺の血は妖怪にとって毒――苦しみもがく妖狐を、当身で気絶させた。


「……大丈夫か?」

俺は杏里の背中をさすりながら声をかける。


神主さんに連絡を取り、俺と杏里だけを結界の一室に残した。

お札が貼り巡らされた空間で、俺たちは二人きり。妖狐を封印し、契約を結ぶためだ。


その後、神主の結界の一室で、封印の儀式が始まった。お札に囲まれた空間で、俺と杏里だけが残される。妖狐を彼女の丹田に縛り止めるため、魂の境界に印を刻む。強化のために、俺は思わず唇を重ねた――それは術の一部であり、同時に未来を繋ぐ契りのようでもあった。


「……少し覚えてるよ。噛み付いちゃって、ごめんね」

杏里は小さな声で呟いた。


「大丈夫だ」

俺は手を差し伸べ、微笑む。


「あなたのこと、なんて呼べばいい?」

その問いに、俺は少しだけ間を置いて答えた。

「今日から君の旦那さんだよ」


「……旦那さん? 初めて会ったのに、どうして?」

杏里の瞳が不思議そうに揺れる。


俺は静かに、自分の胸に刻まれた記憶を思い返した。

未来の君に助けてあげて、と頼まれたこと――迷い込んだ時間の記憶が、今ここでつながったのだ。



それからというもの、彼女は俺を「旦那さん」と呼ぶようになった。

あだ名のようでいて、契約の証のようでもある――不思議な響きを持つ言葉だった。

けれど、俺たちはまだ結婚してはいない。

同じ屋根の下で暮らしながらも、踏み出せない理由がある。


彼女の不死身の呪い、俺の抱えた欠陥……。そして何より、心の奥で燻る“妖狐との因縁”。


だからこそ、旦那さん――という呼び名は、ただの呼称以上の意味を帯びて胸に響いていた。

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