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 それから数日

 隣国に商談の為に出かけていたカイルのお父様から父へ面会を求める手紙が届きました。

(ちなみに父は私の話を聞いて直ぐに召喚状を商会宛に出しており、その召喚日は既に過ぎておりましたが、隣国へ出ており不在との連絡も受けておりましたので大きな問題とはなりませんでした、事情も事情ですしね)

 父は手紙を読むと改めてカイルのお父様とダージ子爵へ手紙を書き私達の面談日は3日後に決まりました。


「お久しぶりでございます閣下」

カイルのお父様、ラカン商会会頭オリバーは神妙な表情を浮かべてその顔色の良い頭を下げました。

 その隣にはカイルもニコニコと機嫌が良さそうに立っていますし、カイルの横にはこれまた機嫌の良さそうなダージ子爵令嬢エリエンヌ様も居ました。

 唯一様子が違うのはダージ子爵で顔色が心做しか青くなって震えてもいるようでした。

「ふむ、久しぶりだなオリバー。この様な形で会うことになるとは思わなかったよ、君ともねダージ子爵」

「ハイマット伯爵、私の娘がご令嬢の縁談を壊したというのは本当なのですか?!」

「それは見てわかる事ではないかね?」

 お父様はカイルとダージ子爵令嬢の方へ視線を向けてダージ子爵に現実を見るように促し、全員を座らせました。

 ダージ子爵は今回の事を知らず青天の霹靂だったのかも知れませんが、すぐ隣で行われている恋人同士のやり取りから目を逸らすのは頂けませんよね?


「では、今回の婚約破棄についてだが、カイル」

「はい!」

 余程婚約破棄が嬉しいのか満面の笑みを浮かべて声を上げるカイルに呆れを滲ませた父が事実確認を行う為に声をかけます。

「君はダージ子爵令嬢との真実の愛(笑)を貫く為に当家の次女アンテーヌとの婚約を破棄したいという事で間違いないのかな?それはダージ子爵令嬢も承知している?」

「もちろんですわ!ワタクシとカイルは真実の愛で結ばれた運命の恋人ですの!」

「そうです!僕らは運命の恋人同士なんです!もちろん行き遅れになってしまうアンには申し訳ないとは思っていますが愛されない生活を生涯続けるより婚約破棄をした方がいいと思います!」

まぁ、とっても満足気ね(笑)

「ふむ、ダージ子爵、オリバー君達の意見はどうだい?」

「今回の事は私としても非常に残念に思っております。長年支援を行い持ち直してきた領地も知っておりますし、アンテーヌ様が当家に嫁がれた後も不自由しないように準備してまいりましたので、、、。しかし息子は運命の恋人としてダージ子爵令嬢エリエンヌ様を選びました。ダージ子爵領は海に繋がる大河に面し我が商会としても歓迎すべき事と捉えております。

伯爵閣下をはじめアンテーヌ様におかれましても何卒ご理解頂けませんでしょうか?」


 なるほど、オリバーは商会の利を見てより利になると思った子爵家との縁を選んだという事でしょう、意味がわかりませんが。

「ダージ子爵、君は?」

「わ、わ、私は此度の事は寝耳に水で、恥ずかしながらハイマット伯爵からお手紙を頂くまでこの様な事になっているとは、、、」

 そう言うとダージ子爵はますます顔を青くして震えも大きくなり、冷や汗なのか溢れる汗を必死で拭っています。

「お父様どうしたの?カイルのお父様の商会はこの国有数の大商会よ?それに伯爵家とはいえ今は見る影もない没落した家に何を憚る事がありますの?」

 エリエンヌ様がそう声をかけた時、ダージ子爵の中で何かが切れてしまったのでしょう。


「いい加減にしろ!」


 それはビリビリと窓を揺らす程の大声でした。

 そのとき怒声にびっくりした様子で固まるエリエンヌ様を抱きしめて宥めるカイルとオリバーも驚いた表情を浮かべていました。

「まぁまぁ、ダージ子爵落ち着きなさい」

 父がそう声をかけると火のような視線で当事者達を睨みつけてから俯いてしまわれました。


「まぁ、いい。だいたい解ったが、オリバーは息子の為に随分と大胆な決断をしたものだな?」

「閣下?あの、大胆な決断とは?いったい何のことを」

「それで?いつ全財産を差し出し出国するのだ?」

「は?」

「まさか今まで数代に渡って育ててきた商会を息子の幸せの為なら畳んでも良いと思っているとは私も思っていなかったが、お前が隣国に行っていたのは今回の事の準備だったというわけだな?この国で作った財産を他国に持ち出すことはできないし準備は大切だしな?」

「いえ、閣下いったい何を、私どもの商会がなんですって?」


 オリバーは父が言葉を紡いで行くと共に顔色が悪くなり少し焦っている様です。

「言葉通りの意味だが?あぁ、そういえばカイルの友人とかいう平民が娘に対して『言葉の意味もわからない愚か者』と言ったようだね?その平民は君の所の従業員の様だが、君のところでは貴族に対する礼儀は教えていないのかね?まぁ、君の息子が教えられていない様だから仕方ないのかな?」

「なっ!閣下!お言葉が過ぎますぞ!」

「言葉が過ぎるとは?君は私の娘を通して貴族との取引を円滑にさらに拡大する為の足掛かりとして私に多大な支援金の申し出を行った上で婚約の打診をしてきたというのにどこで方向転換をしたのかな?」

「そのようなつもりは

「貧乏な伯爵家より裕福な子爵家であるワタクシの家を評価しただけでしょう!貧乏伯爵は黙って婚約破棄に頷けばいいのよ!」

 反論しようとしたオリバーの言葉を断ち切る様にエリエンヌ様が声を上げました。

 お隣に座るご自分のお父様の紙の様に白くなったお顔に気付いていらっしゃらないのかしら?

「ダージ子爵」

「はい」

「どうやら令嬢の教育に失敗したようだね?」

「申し訳ございません」


「なによ!お高くとまってたって平民に頭を下げて食いつなぐ様な貴族とも言えない貧乏人のくせに!お父様!こんな貴族モドキに頭を下げるなんてどうかしてますわ!」

あらあら、いけませんわね。

エリエンヌ様はどうやら貴族というものを理解していないようですわ。

「黙れ」

「だって!「黙れと言っている!この愚か者が!」」

 呆れたという感情を隠しもせず不快感を表していた父に許可を貰い少しエリエンヌ様にお話させて頂きましょう。


「お父様、少し私からお話しても宜しいでしょうか?」

 父が無言で頷くのを確認してからエリエンヌ様に視線を向けます。

「エリエンヌ様、貴女は貴族というものを貴族の一員であるというのに理解できていないのかしら?」

「はぁ?!そんなわけないでしょ!」

「では何故上位貴族である我がハイマット伯爵家の、しかも当主に対して先程の様な言葉を投げつけましたの?正直、、、自殺行為でしてよ?」

「貧乏人に貧乏人って言って何が悪いのよ!」

「確かに、我がハイマット伯爵家は災害による被害の為に私財の多くを供出し、国をはじめ他家より多額の支援を頂きながら復興に従事しています。ですがそれは王国貴族として領地を王家より預かる領地貴族としての恩恵を受けて来た貴族家にとって当然の事であり、それによる困窮はなんら恥ずべき事ではありません」

「はん!ただの強がりじゃない!」

「いいえ?強がりではありません。これは貴族としての矜恃であり、常識です。有事の際に国の為、領民の為に身を粉にして働く事のできる者こそが貴族であり、それ故に平時には王家より特権を認められているのです。これは金銭の有無には関係ありませんが、、、我が家はけして貧乏ではありませんよ?」

「はぁ?!カイルの家に借金してる分際で何言ってるのよ!!」

「借金はしておりません」

「嘘仰い!カイルはね金喰い虫で借金を返さないアンタを見限ったの!ワタクシの家はね流通に優れた立地なんですって!これからもどんどん発展していくのよ!アンタの所なんてどこもかしこもボロボロで発展なんて以ての外らしいじゃない!たった5年で落ちぶれたものよね!ざまぁないわ!」


 そう言って高らかに笑うエリエンヌ様を見て私は悲しくなってしまいました。

こんな令嬢を持ったダージ子爵がお気の毒で仕方ありません。

「エリエンヌ!いい加減にしないか!申し訳ありませんハイマット伯爵!アンテーヌ嬢!!」

「お義父さん!エリは本当の事を言っているだけなのになんで謝るんですか!」

「お前にお義父さんなどと呼ばれる筋合いはない!」

「このままでは話にならないな」

 騒がしい室内に父の静かな声が不思議と響きます。

父の一言で全員が父へと視線を向けます。

「ダージ子爵以外、君達はもしかして事の重大さが解っていないのか?」

 父はオリバー、カイル、エリエンヌ様を見ながら呆れた様に言葉を紡いだのですが、

(そんなまさか)

という気持ちが湧き上がります。


 身分制度のあるこの国で生きて来て今回の事がどの様な結果を齎すのか理解出来ていないなんて、まさかそんな事あるわけがありません。

「じゅ、重大さとは、あのこの度は残念な事ではありますがカイルとの婚約は支援金の返済を免除する事で穏便に破棄して頂ければそれで」

 オリバーのその言葉で父の懸念が真実であったのだと判明しました。

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貴族社会に生きてる癖に碌に学んでないの学院とかないのかな?
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