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「婚約破棄、、、?ですか?本気で?」
休日のカフェで久しぶりに会った婚約者はまるで日常会話の続きの様な軽い口振りでこれからの人生を決める言葉を吐いた。
私、エステート王国の西部に領地を持つハイマット伯爵家の次女、アンテーヌ・エラ・ハイマットと申します。
約5年前に王国西部を襲った大地震により王国でも有数な豊かさを誇る土地であったハイマット家の領地は壊滅的な被害にあい、多くの領民だけでなく、豊かな農地、様々な鉱物を産み出してきた鉱山の多くが被害を受けそれまでの平穏で豊かな日常は灰燼に帰しました。
復興の為にそれまでの貯蓄は全て放出し、時には父や兄と共に領民と共に作業をする事もありました。
既に嫁いだ姉の婚家からも援助はありましたが、正直に申しますと焼け石に水といった具合いで一向に復興の目処は立たず、国から派遣された災害調査の調査官からは「復興には少なくとも20年はかかるでしょう」と告げられ、これからの事を思うと暗澹たる気持ちになった事もあります。
それでも家族、領民一丸となって復興に当たり、幸い国からの支援もあった為少し持ち直して来たのが3年程前の事になります。
その頃には以前の華やかさなどなくなってしまいましたが私も適齢期となり、できれば領地に支援して頂ける方に縁付ければと思っておりました。
そんな折のこと、海運で財を成した国内有数の商会より後継である嫡男との婚約を条件に多額の支援を行いたいとの申し出があり、父は悩み抜いた結果として私とカイルとの婚約を了承しました。
それから3年、領地も若干ではありますが復興に向けて前進を続けており最近では生活も落ちつき、社交シーズンを王都屋敷で過ごす事もできるようになった為いよいよ私達の婚姻をとなったのですが、それまではいい関係を続けていた婚約者のカイルが突然よそよそしくなり、定期的に行っていた茶会や手紙のやり取りもカイルから直前でキャンセルされたり、手紙も返事が返って来るのが稀になってしまいました。
原因はわからないままだったのですが、ある時お使いに出た使用人がカイルの浮気現場を目撃したと言ってきたのです。
その時は衝撃を受けましたが、正式な婚姻前とはいえ、政略による貴族の婚姻では愛人を持つ事もある種当たり前の事であり、私を正妻として遇して優先して頂けるのであれば今までの事もあり許すつもりでした。
それから暫く相変わらず不義理を続けるカイルはますます愛人との仲を深めている様ではありましたが、それでも許容できる範囲でのお付き合いでしたので私も静観しておりました。
そして今日、久しぶり届いたカイルからの手紙で呼び出された貴族子女も多く利用する王都でも人気のカフェの一角で友人だという男性を連れて現れたカイルから婚約破棄を告げられたのです。
それは私には考えおよびもしない事でした。
私達の婚約は家を通した契約です、それをこの様な誰が聞いているかもわからない場所で一方的に破棄すると口にするなど本気だとはとても思えなかったのです。
「本気だよ!僕は真実の愛を知ったんだ!」
「えぇ、貴方が婚姻前ではありますが愛人を作っている事は存じ上げています。でもそれがどうして婚約破棄に繋がるのですか?」
私が困惑してそう告げるとカイルのご友人(お名前は存じ上げません)が私を馬鹿にしたように鼻で笑って
「頭の悪いお嬢様には言葉すら通じないみたいだなカイル」
と仰ったのです。
「まったくだよ!こんなにアンが頭の悪い人間だとは思わなかった」
この言葉には護衛や侍女も怒りを顕にしていたのですが、私はただただ愛の為に全てを投げ打つ事を決心したカイルに感心していました。
「カイル、貴方は愛の為に今までの(人生)全てを捨てさる事ができる、それ程までに素晴らしい出会いだと言うのね?」
「なんだ!解ってるじゃないか!」
だから嬉しそうに声を上げるカイルの決意は余程のものなのでしょう。
「では私の父と貴方のお父様、お相手とその保護者を含めて今後の事を相談しなければいけませんね」
「え?どうして?僕と君の婚約だよ?」
「えぇ、私(の家)と貴方(の家)の婚約を破棄するのだからちゃんとしないとでしょ?それに相手の方ともお話しないと、確かお相手はダージ子爵令嬢よね?私から父を通してお手紙をお出ししますわ」
「僕がエリと付き合ってたのを知っていたの?」
カイルは少し驚いて
「それならどうして君から別れてくれなかったんだよ!もういい!そういう事だから!」
と怒って席を立ってしまいました。
別作品を書いていたのですがデータが飛びました、、、
逃避の為に別作品を、、、、
書きやすい婚約破棄ものを!
って事で生まれた作品です。
誤字脱字は優しく見守って下さい。
すみません(^^;