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零界を旅する一般人  作者: 獏麒


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8.転送塔を超えて

 

大渓谷を抜けて辿り着いた街は、さまざまな時代や種族が交じり合う混沌の都だった。

食も文化も混ざり、落ちたものが新しい形で生き続ける。

海斗も少しずつ混ざり適応していくのを感じながらも、精霊との在り方が引っ掛かる。

そんな疑問の先に、“精霊なき魔法”を求める教授の声が届く。


ーーーーーーーーーー


 朝靄の残るミルダートの東端、街の外壁を貫くようにして立つ“転送塔”は、まるで天へ伸びる巨大な管のようだった。

 塔の表面には幾千もの魔導文字が刻まれ、螺旋状の光がゆっくりと上へ流れている。

 低く鳴る鐘の音が霧の向こうで反響し、夜が明けたばかりの街を静かに震わせた。

 遠くでは商人たちが荷を積み、魔導灯の明かりが一つ、また一つと消えていく。

 それは、昼へと向かう世界と、夜に別れを告げる街の息遣いだった。


 下層には整備された円形の儀式場。古代の魔法陣と、近代魔導機関の駆動装置が融合したような空間だ。

「ここが転送塔、“空間重奏炉”ニャ。魔法と技術の折り重なり、世界の層を重ねて移動するオリジンの象徴ニャ」

 ダルニャータが金の瞳を細める。

「転送には少し酔うわ。意識を切り替える準備をして」

 シルヴィーが制御盤の魔導レバーを引く。低い唸り音が床下から響いた。


「転送って……安全なのか?」

「理論上はね。身体がばらばらになる確率は、十万回に一回くらいよ」

「やめろ、その笑いながら言うの」

「にゃはは、縁起でもないニャ。まぁ安心するニャ。教授が組んだ座標式は精密そのものニャ」


 海斗の足元に、光の円が浮かぶ。

 光の流れを見つめながら、海斗は昨夜の通信を思い出す。



『――あなた、まだ混乱しているでしょうけど、私の研究に関わるの。だから迎えを出したのよ』


 淡々とした声。その奥に、わずかに微熱のような情熱があった。

 エリカ・ランディーニ。落人保護の依頼主。だが、ただの研究者ではない。


『私はね、精霊を介さない魔法を目指しているの』

『精霊を……使わない?』

『そう。精霊は気まぐれ。祈りに応える時もあれば、背を向ける時もある。

 でも、“理解”は裏切らない。世界の理を解析して、意志で再現できるなら――

 それは、誰にも奪われない魔法になる』


 その言葉は、科学の世界に生きてきた海斗の心に深く刺さった。

 研究室の夜、仮説と実験に没頭したあの熱。理屈と好奇心が共鳴する感覚。

 声の向こうにいる彼女が、どんな目でこの世界を見ているのか、少しだけ知りたくなった。


『明日、転送塔を通ってアーカム・ネリアへ。魔導大学の“第七研究棟”に私のゼミがあるわ。

 ……たぶん、片付けておくから』


 最後の言葉に、ほんの一拍の沈黙。

 通信が切れたあと、シルヴィーは「絶対片付いてないわよ」と笑った。



 意識を現実に戻すと、光が強まり、塔の床に魔法陣が輝いていた。

 円環の中で光が回転し、空気が震える。

「転送座標、アーカム・ネリア研究都市。準備完了」

 シルヴィーの声が響き、魔力の流れが海斗の身体を包んだ。

 視界が反転する。音が遠ざかり、体の輪郭が溶けていく。


 ――怖くはなかった。

 落ちたあの日とは違う。今は、自分の足で選んで“越えていく”。

 胸の奥で何かが静かに鳴った。

 この世界の理の向こうに、自分の“答え”がある気がした。


 光が弾け、世界が切り替わる。


読んでくださりありがとうございます。

次回もお時間をいただけると嬉しいです。


応援してやるっという素敵な方は

レビューとか評価とかブックマークとかしていただくと

作者が泣いて興奮して喜びます。あと、更新が早まるかもです。よろしくお願い致します。

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