7.味覚の記憶
昼下がり、街の喧騒は穏やかな活気に包まれていた。
石畳の広場に腰を下ろし、海斗は木碗を手に取る。
湯気とともに立ち上る香りが、どこか懐かしい。
「それ、“ドートウスープ”よ」
シルヴィーが笑いながら、スプーンを渡してきた。
「ドートウ…?確かに味噌とは、ちょっと違う香りがする」
「地球の味噌が落ちてきたとき、材料が合わなかったらしくてね。
こっちの豆と鉱塩で再現したのが“土豆”。似てるけど、まるで別物」
「落ちたものをそのまま使うんじゃなくて、混ぜて生きてるんだな」
「そうニャ。それが“混ざり合う世界”ニャ」
一口すすると、香ばしさと土の甘みが舌に広がる。
地球の味噌汁に似ているようで、後味に微かな金属香が残る。
けれどそれが不思議と心地よかった。
落ちたものが変化して生き続ける――この街そのもののように。
やがて陽が傾き、広場の石畳が赤く染まり始めた。
屋台からは再び香ばしい匂いが漂い、夜の支度が始まっていく。
その中でダルニャータが鼻をひくつかせ、屋台を指差した。
「"火蜥蜴"のステーキ、今日のは脂がいいニャ」
「また肉か……」
「旅人は体力勝負ニャ」
鉄板の上で肉が焼け、表面が一瞬だけ光を放つ。
「自分で光ってるんですけど!?」
「火の精霊が抜け切る前に焼くとこうなるニャ。味は保証付きニャ」
一口食べた瞬間、体の奥から熱が広がる。
辛味と甘味、そして風のような清涼感が入り混じっていた。
「……熱いのに、どこか涼しい。不思議な感じだ」
「火と風、両方の精霊が宿ってる肉ニャね」
シルヴィーが隣で青く光る酒を注ぐ。
「ウィンドベリーの果実酒。暑気払いにはこれが一番」
一口飲むと、喉の奥でひんやりとした風が吹くようだった。
笑みが漏れる。
「……すげぇ世界だな」
「ふむ、これらも口に合うかニャ?」
「合う。たぶん、もう少しで“慣れる”。
けどこの世界、精霊に頼りすぎじゃないか?」
「まぁ、どこにでもいるからね」
「文明の半分は精霊、もう半分は偶然ニャ」
ダルニャータが誇らしげに尻尾をくるりと回した。
「偶然、ね……」
海斗は呟く。
理より流れ、秩序よりも調和。
けれどその側で――精霊を介さずに力を操ることを夢見る者がいると聞いた。
例の“教授”。
彼女の研究は、この世界の在り方そのものへの挑戦なのかもしれない。
そんな思索を遮るように、シルヴィーの通信端末が鳴った。
薄い魔法陣が光り、柔らかな声が響く。
『あら、無事だったのね。良かったわ。……で、落人は?』
どこか眠たげで、それでいて鋭さを帯びた女の声。
ダルニャータが小声で呟く。
「依頼者登場ニャ」
海斗は思わず姿勢を正した。
まだ見ぬ“教授”――だがその声の奥に、
世界の理を裏返すような、奇妙な熱を感じていた。
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