6.混沌の街の朝市場
夜が明けると、世界が一変していた。
淡い金色の光が大地を照らし、赤土の地平線の向こうに、巨大な結界壁が見えてくる。
それは青白い半透明の膜で、陽光を受けて波のように揺らめいていた。
「あれが……ミルダート?」
「そうニャ。魔導都市圏の玄関口ニャ。オリジンでいちばん“混ざった街”でもあるニャ」
「混ざった?」
「人もモノも思想も――上位世界の落とし物が、全部ここに集まるのニャ。混ぜ物の都、ってやつニャ」
バイクが結界を通過すると、空気の密度が変わった。
まるで見えない水面を割ったような感覚。
耳の奥で微かな鈴の音が鳴り、光の粒が肌を撫でていく。
そして――目の前に広がったのは、色と形が乱舞する世界だった。
高層の塔が空に伸び、その隣に茅葺き屋根の民家。
浮遊する搬送車が上空を通り過ぎれば、路地裏では鍛冶屋が鉄を打つ音が響く。
通りを歩くのは、翼のある種族、金属の腕を持つ人間、耳の尖ったエルフ、透明な皮膚の少女。
誰もがそれを“普通”として受け入れていた。
「……すげぇ。まるで未来都市と中世が合体したみたいだ」
「ここはそういう場所ニャ。時代も世界も、ぜんぶ折り重なってるニャ」
ダルニャータが尻尾で軽く合図すると、魔導ドローンが頭上を横切り、街の案内広告を投影する。
“ミルダート転送塔 本日の通行制限:第三区以降”
“ギルド通り 再生薬草セール開催中”
カイトは目を丸くした。
見たこともない言語が、次の瞬間には日本語に変換される。
「……これ、俺に合わせてる?」
「翻訳結界ニャ。都市全体に張られてる。言葉の違いで揉めるのは効率が悪いニャ」
歩道の脇を、魔導車が音もなく滑るように走り抜けていく。
魔力灯が淡く点滅し、通りには香ばしい匂いが漂っていた。
どうやら屋台街に近づいているようだ。
「そろそろ腹ごしらえニャ。人間はエネルギーがすぐ切れるニャ」
「おいおい、猫に言われたくないけど……正直、腹減った」
「にゃはは、素直でよろしい」
通りを曲がると、一気に喧騒が広がった。
鉄板で焼ける肉の音、果実を搾る香り、香辛料と甘味の入り混じる匂い。
屋台の主人たちは種族も姿もバラバラで、だがそれぞれの手つきは慣れたものだった。
「ほら、ここは“異界市場バザール”。
ミルダートに来たら、まずここを見ろって旅人の常識ニャ」
頭上を見上げると、浮遊する魔導ランプが朝陽の代わりに通りを照らしている。
人々の喧騒が、どこか懐かしく、心地よかった。
香辛料の匂いが風に混じり、通りを抜けていく。
バイクを預け、三人はしばし徒歩で街を回ることにした。
行商人の呼び声、子供たちの笑い声、空を飛ぶ使い魔。
カイトは深呼吸をした。
この混沌に自分が混ざるようで、"異世界で生きている”という実感が、静かに胸の底に落ちていった。
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