表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
零界を旅する一般人  作者: 獏麒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/51

5.旅路と静かな夜


修士論文を終えた青年・丸山海斗は、階段を踏み外し異世界オリジンへと墜ちた。

森で魔物に襲われ、猫の剣士ダルニャータと、その妻シルヴィーに救われる。

二人に導かれ、この世界の名を知った海斗は、

“教授”エリカ・ランディーニを訪ねるため、新たな街を目指して旅立つ。


ーーーーーーーーーー


 大渓谷を抜ける風は、砂を含みながらもどこか心地よかった。

 木々は減り、地面は乾き、空が大きく広がっていく。

 遠くに霞む丘陵の向こうに、金属のような光を反射する建物の影――それがミルダートだと、シルヴィーが指差した。


「あと二日ってところね。途中で野営を挟めば、夜明けには街が見えるはず」

「街が見えるのがこんなに嬉しいの、人生で初めてかもしれない」

「そりゃそうニャ。文明の灯りは旅人にとっての祝福ニャ」


 バイクを降り、彼らは緩やかな丘の中腹に野営地を作ることにした。

 陽が傾くにつれ、空の色が紫から群青へと変わっていく。

 カイトは手際よく枝を集め、焚き火の準備を手伝った。


「君、火の扱いは慣れてるニャ?」

「キャンプってほどじゃないけど、大学でゼミ合宿とかなら」

「ふむ、それなら十分ニャ。ほら、これを使うといいニャ」


 ダルニャータが差し出したのは、指先ほどの透明な石。

 中心が淡く赤く光っている。


「魔導着火石。火打石の親戚ニャ。砕けば精霊がちょっとだけ火を貸してくれるニャ」

「精霊が……貸してくれる?」

「うん、貸すの。返さないと怒るから、使いすぎ注意ね」

 シルヴィーが冗談めかして笑い、手際よく携帯鍋を火にかける。


 香ばしい匂いが漂い始めた。

 中で煮えているのは、乾燥肉と香草を溶かしたスープらしい。

 湯気に混じって、どこか金属のような匂いが鼻をくすぐる。


「……いい匂いだけど、ちょっと独特だな」

「魔獣の肉よ。体内の魔素が残ってると、ちょっと鉄っぽい香りがするの。

 でも慣れると癖になるわ」


 一口飲むと、舌の上に熱が広がった。

 塩気は控えめで、香草が強い。けれど、体の奥から力が湧いてくるような感覚がある。

 食べ慣れた世界の味ではない――けれど、不思議と悪くない。


「ふむ、口に合うかニャ?」

「うん……思ってたより美味しい。なんていうか、体が“欲しい”って言ってる感じがする」

「それが魔素ニャ。この世界の食は、味だけじゃなく力の流れも整えるニャ」


 焚き火の火がぱちりと弾け、夜の帳が降りた。

 見上げた空には、二つの月が淡く輝いていた。

 一つは白く大きく、もう一つは薄青い輪郭だけを残して揺らめいている。

 無数の星々がその隙間を流れ、川のように煌めいていた。


「……すごい。地球の夜空とは全然違うけど、綺麗だな」

「オリジンの空は、どの世界の星も映すニャ。

 落ちてきた世界の記憶が、光の層になって流れてるのニャ」


 風が、焚き火をかすかに揺らした。

 魔導バイクの金属が夜露に光り、ドローンのランプが静かに点滅している。

 この世界に来て初めて、海斗は“静かな夜”を感じていた。


(怖くない。……少し、不思議だけど)


 湯気の残るカップを両手で包みながら、彼は夜空を見上げ続けた。

 見知らぬ世界の星々が、どこか懐かしく瞬いていた。


読んでくださりありがとうございます。

次回もお時間をいただけると嬉しいです。


応援してやるっという素敵な方は

レビューとか評価とかブックマークとかしていただくと

作者が泣いて興奮して喜びます。あと、更新が早まるかもです。よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ