48.森に臨む三人組
アーカム・ネリアを出発して半日。
転送塔で東方拠点までひと跳びしたとはいえ、そこからユグルヴァインまではさらに徒歩三日の行程が続く。
街道を外れ、森の中へと続く獣道に足を踏み入れていく。森の入り口に苔むした古びた木製の標識が立っていた。
「これ、なんでしょう?何かの絵と文字でしょうか?」
「うーん、掠れてて全くわかんないな」
「私にはとぐろを巻いた蛇に見えるね!」
何気ない会話をしながら、その標識を、森と街道の境界を示すその位置を踏み越えた瞬間、空気が変わった。
「これは驚いた」
「……うわ、これ。外と理の流れが別物だ」
カイトとマチルダが思わず立ち止まる。
まるで、膜を纏ったような濃密さを持つ空気と森の風が耳元をかすかに撫で、そのざわめきすら意味を持って届くようだった。
「精霊の活性域に入ったんですね。ここから先はずっと“声が近くなる”はずです」
イリスが胸の前に手を当て、少し顔をしかめながら目を細める。
風の訴え、土の脈動。
理の翻訳者である精霊たちの気配が、普段より何倍も強い。
「マチルダさんどうかしました?」
「……うーん、ちょっと違和感があるね」
マチルダは剣の柄を軽く叩きながら、眉をひそめた。
「さっきの標識を過ぎてから、気配は強いのにいつもより精霊を遠くに感じるんだ。イリスとは逆だね」
「私とマチルダさんで何か差があるんでしょうか?」
「まぁ、戦闘に大きな支障はないと思うけどね」
普段とはちょっと違う、そんな漠然とした不安を抱え込んだまま、三人は森の奥へと進んだ。
ーーーーーーーーーー
昼を過ぎた頃、三人は渓谷沿いに一息つくにはちょうど良さそうな、少し開けた場所を見つけた。
せせらぎの音が風と混ざり、陽光が木々の間から差し込む。
「タイミングもいいですし、そろそろお昼にしましょうか」
イリスが布包みを広げる。
中からは魔獣のジャーキー、ドートウペースト、香草の束、ペミカン、携帯鍋。
「また……香りが強いな、この肉は」
「鎧森猪のジャーキーです。残留魔素が強い種だから、ちょっと癖がありますけど」
「いや、ほんと……この世界の食材って美味しいけど癖あるの多いよね」
マチルダが川で汲んだ水を鍋に注ぎ、袋から魔導着火石を取り出す。
「もう火を着けるよー」
ぱん、と石を割ると、赤い火が指先に灯る。
鍋底に火が移ると、あっという間に香草の良い匂いが周囲に広がった。
「あとはスープね。ペミカンと少し胡椒を足して……うん」
「教授の準備リストに二重丸ついてたやつだな」
「そうそう。あの人、ペミカンだけは信頼してるのよね……」
「あと、トマトジュースのフリした劇物ね」
笑いながら手際よく、調理を進めスープを煮込んでいく
しばらくすると鍋から食欲をそそる香りがたち始める。
一口食べれば、土の甘み、香草の爽やかさ、そして鎧森猪の癖のある濃厚な旨味が舌を打つ。
「……うまい。なんかこう……食べると身体の芯に染みていく感じがする」
「これで酒があればさらに最高なんだけどな」
マチルダがチラチラとイリスを見ながらこぼす。
「ダメです。移動初日のお昼からもうお酒なんて。」
「むう、イリスは厳しいな。……カイトはどうだい?お酒飲みたくなるだろ?」
「勝手に仲間にしないでくださいよ。わからなくもないけど」
呆れながらも、イリスに睨まれないように静かにスープを啜るカイト。
森の風が鍋の湯気を揺らし、陽光が木々の隙間からきらきらと降り注いでいた。
お読みくださりありがとうございました
10日近くお休みとなってしまい申し訳ありません。
何度か書いて消してを繰り返して、結局シンプル文量少なめまで削ってしまいました。
ルビをミスりまして一番編集です
これからも少しずつ更新していきますのでよろしくお願いします




