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零界を旅する一般人  作者: 獏麒


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45/51

45. 初めての訓練と使えない盾


 昼を少し回った頃。

 買い出しの袋を抱えたまま、カイトは冒険者ギルドの訓練場に立っていた。


「……本当にギルドに来ちゃったよ」

「予定が埋まって楽しいだろ?」マチルダが笑う。

「諦めて袋を預けてこいよ、坊」ジェイジーが肩をすくめた。


 砂地の広場では金属がぶつかる音と、訓練用魔導具の光がきらめいている。

 街の喧騒と異なり、空気は戦いの熱を含んでいた。


「いやぁ、楽しみだなぁ。カイトはどれくらい保つかなぁ」

 マチルダが笑いながら荷物を預かり、呟きながら受付に向かう。


「ちょっとジェイジー! マチルダさんめっちゃやる気だよ! 俺がボロ切れになる前に止めさせてね? マジで!」

「ハッハッハッ、それができりゃあ俺ら2人ともここにいねぇよ」

「嘘だろ……」


「どれ、準備は出来たかい、カイト?」

 戻ってきたマチルダが言いながら腰の剣を外し、軽く構えを取る。

 その姿はどこまでも自然で、無駄がない。

 まるで剣が身体の一部であるかのようだった。


「さて、カイト。まずは“どのくらい見えるか”確認しようか?」

「……見えるか、ですか?」


「そうだ。理を見る観察眼がどの程度戦闘に活かせるか。私が剣を振るうから、とりあえず避けるんだ!」

「理屈で測ろうとするなよ? 見たままで避けろ」ジェイジーが他人事のように言う。

「え、理屈で避けちゃだめなんですか?」

「だめだね! ほら構えて!」マチルダが笑う。


 ジェイジーが木製の訓練剣を一本放った。

 カイトが慌てて受け取り、両手で構える。

 構えた瞬間、マチルダの剣が走った。


 マチルダの木剣が、風のような速さで突き出される。

「おおっ⁉︎」

 カイトは反射的に身を引き、ぎりぎりで避ける。

 その一瞬、彼の視界がわずかに拡張した。

 剣の軌道、足の向き、腰のひねり――すべてが一枚の映像のように“見える”。


 ――あ、こう来る。


 だが、身体は遅れた。

 次の打ち込みであっさりと木剣が腕を叩く。


「うぐっ……!」

「うん、やはり反応がいいな!」マチルダが微笑む。

「いやっ、いきなりすぎですよ!」

「でも見て避けられたろう? 十分だ十分」ジェイジーが煙草をくわえながら笑った。

「……まぁ、身体は着いてこなかったけど」

「そりゃそうだ。観て理は伝わっても、身体は別モンだ」


 そのやり取りに、周囲の冒険者がくすりと笑う。

 カイトは深呼吸をして、もう一度構え直した。



 それから数時間。

 転ぶ、避ける、叩かれる、転ぶ。

 それでも彼は観察をやめなかった。


 相手の重心、呼吸、剣の軌跡。

 何度も打たれながら、それらを一つずつ理解していく。


「……ふむ。思ったより保つじゃないか」マチルダが嬉しそうに呟く。

「理解が早ぇな。動きは……まだ置いてかれてるが」ジェイジーが評価をつける。

「そうだね。身体が目の良さに追いついてないだけで、理解の速度は上出来だ」

「……褒められてる気がしないんですけど」


 夕暮れ。

 みっちりと訓練を終えたカイトは、訓練場の砂地に倒れ込む。


「よし、今日はここまでだな……」

 マチルダが満足そうに剣を鞘に納めた。


「最後までよく保ったな、坊」

「うん。私も楽しかった。最後の方はよく避けられてたよ」

「そりゃあ、よかったです……」


 息も絶え絶えで砂まみれのまま小さく笑う。

 腕は痛み、足も重い。

 けれど、目の奥には確かな“感覚”が残っていた。


  ジェイジーが煙草を咥え直しながら笑う。

「まぁ坊、戦場にいる奴が全部強ぇ必要はねぇ。適材適所って言うだろ? お前は“見て動く、見て考える”タイプだ。

 今日の収穫は、それを改めて身体で実感できたことだな。これからも回避に努めて、戦闘は嬢ちゃん達に任せればいい」

「……そうですね。身体のほうが文句言ってますけど」

「明日になったらもっと言うぞ」


 三人の笑い声が、夕暮れの風に混ざって消えていった。

 街の鐘が一度だけ鳴り、光が塔の方へと流れていく。

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