37. 研究成果と強制訪問
「坊! どうにかしろ!
このままじゃ押し潰されるぞ、守り抜けてもジリ貧だ!」
ジェイジーの怒鳴り声が風の咆哮にかき消される。
盾を叩きつけるように構え、暴風の刃を受け止めるたび、金属が悲鳴を上げた。
「わかってるっ! 魔力が散らされるなら……!
理の破れを繋いで……これで……!」
カイトは魔導板に手を走らせる。
表示された観測データを、浮遊ドローンに同期。
幾何学模様の光が空中に浮かび、風の流れを可視化していく。
塔を取り巻く理の流れが、まるで裂け目のように歪んでいた。
「坊、それは何だ? おもちゃで風が止まるのかよ!」
風を押し返しながら、ジェイジーが叫ぶ。
「ヘルダム・シンを解析して、教授が作った試作コアだ!
理論上は近くの理に干渉して、魔力を安定させられるはず!」
「理論上、だぁ? そりゃあお前、実戦じゃ一番信用ならねぇ言葉だぞ!」
イリスが魔力を練り直しながら問いかける。
「動作保証は……あるんですか!?」
「ないけど、やるしかない!」
「へっ、若ぇのに肝据わってんな!」
カイトがコアを空中に投げる。
ドローンが軌道を変え、渦の中心へ滑り込んだ。
瞬間、淡い光の線が塔の外壁から走り、風の流れが一瞬だけ止まる。
「今だ、嬢ちゃん! ぶっ放せ!」
「はいっ!」
イリスが再び詠唱を開始する。
風がわずかに落ち着いた瞬間を逃さず、杖先に淡い氷光が集まる。
「魔力励起――穿て、氷刃陣!」
瞬間、無数の氷の刃が風に乗って放たれた。
白い閃光が円を描くように広がり、風精の残滓を切り裂く。
鋼の羽が砕け、氷片とともに地へと落ちた。
「……ったく、どうにかなったか」
ジェイジーが盾を下ろす。
風が一瞬、穏やかに流れた――が、その静寂は長くは続かなかった。
塔の上空、巨大な渦の中心で、青い光が再び明滅する。
空気が震え、崩れた理そのものが再構築を始めていた。
「――反応が戻ってきてる! 理が崩れるほうに自動修復してる!?」
「チッ……まるで塔そのものが、俺たちを排除しようとしてやがるな」
ジェイジーの呟きに、カイトは頷く。
「観測を拒む“理”……か」
その言葉と同時に、塔の頂から無数の光条が走った。
理が暴走し、狂った風精の喚声が再びこだまする。
山全体を覆うほどの魔力嵐が巻き上がる。
「クソッ! 塔の入り口まで走るぞ! 足踏み外したら終わりだ、谷底行きだぞ!」
「鉄鋼体!」
ジェイジーの身体から鈍い金色の光が漏れ出る。
「カイト君、“カーク・ヴィント”!」
すかさずイリスがカイトに迅速の魔法をかける。
「助かる!」
「おらぁああっ!」
雄叫びをあげ、盾と身体で風精を弾き飛ばしながらジェイジーが突進する。
開かれた道を、カイトとイリスも遅れず駆け抜けた。
「塔の入り口! きっとロックがかかってます……!」
イリスが走りながら叫ぶ。
「緊急事態だ! こじ開ける!」
「どうやってですかっ⁉︎」
カイトが負けじと叫ぶと、ほぼ悲鳴のようにイリスが返す。
「やかましい! こうだよっ!」
勢いのままにジェイジーが一段加速する。
「破城槌ッ!」
塔の入り口に盾を叩きつけ、轟音と共に破壊する。
風精の追撃をかわし、なんとか塔内部に侵入した三人だった。
外では魔力嵐の中心が、相変わらず青い眼のような輝きを放ち、
確かに彼らを見つめ返していた――。
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