36.風の塔の試練
ヘルダム・シンの調査を終えたカイトたちは、束の間の休息を終え、新たな調査地――山岳地帯バルムへと向かう。
そこに眠るは理の循環を制御していた魔導気象塔〈エアロポリス〉。
だが今は風が狂い、精霊すら近づかぬ魔力嵐の中心と化していた。
新たな同行者J・G・ハスターを加え、三人は風乱れる山へ。
そこに待つのは、崩れゆく理と、なお“空を見上げ続ける塔”だった。
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夜明けのリュオ・サルカ。
街の屋根を撫でる風が、東の空を淡く染めていく。
街の入り口に立つ三つの影――カイト、イリス、そしてジェイジー。
風は冷たく、空気には砂と鉄の匂いが混じっていた。
見上げた山の稜線が霞み、その先に薄く白い霧の帯が漂っている。
そこが、魔導気象塔〈エアロポリス〉のある場所だ。
「……あれが、目的地ですか」
イリスが風に髪を押さえながら見上げた。
夜明けの空に、蜃気楼のような影が浮かんでいる。
塔の上層は崩れ、雲に溶けるように見えた。
「ああ。昔は“風を導く塔”なんて呼ばれてたが、今は侵食されてあの通りだ」
ジェイジーが盾のベルトを締め、肩を鳴らす。
「理の崩壊が局地的に進行している……ってことですね」
「ここからわかる範囲でも風の流れが一定じゃない」
カイトが魔導板のデータを見ながら言った。
「準備はいいか? 今から出れば朝飯は塔の目の前だ。手早く行くぞ」
「わかりました。観測装置はすべて同期済みです」
「風がどんどん強くなるからな。嬢ちゃん、飛ばされねぇようにしっかり掴まっとけよ」
「飛ばされるような強風なら、盾が最初に巻き込まれますよ」
「はは、言うねぇ」
軽口の中に、緊張の気配が滲んでいた。
彼らは街を後にし、山道を登りはじめる。
砂混じりの風が頬を打ち、足元では乾いた草が音を立てて砕けた。
やがて霧が濃くなり、視界の先に黒い影がぼんやりと姿を現す――。
霧の下に広がる谷、その中央に巨大な塔が突き刺さっている。
塔の周囲では、常に風が渦を巻き、岩肌を削っていた。
吹き上げる突風が、砂と光を巻き上げ、まるで生き物のように彼らを睨む。
「……すごい……」
イリスが息を呑む。
目の前の光景は、もはや“遺跡”というよりも“嵐そのもの”だった。
「こいつぁ予想以上だ」
ジェイジーが盾を背負い直す。
岩肌を滑る突風が彼のマントをはためかせ、砂を舞い上げた。
カイトは観測装置を展開し、数値を読み取る。
「風速……一定じゃない。理が断続的に変調してる。これじゃ普通の魔法を放つのも一苦労だ」
風速は毎秒五十を超え、魔力濃度は常に変動していた。
「風の流れを測るだけでこれか。さすがに笑えねぇな」
ジェイジーがぼやきながらも、足を止めない。
彼の動きには迷いがない。重厚な盾が風を受け、砂を切り裂く。
「塔の外壁、あの光の反射……理が崩壊と再構成を繰り返してるようです。まるで、生きてるみたい」
「生きてる、ね」
カイトは風の向こうに目を細めた。
崩れかけた塔の上層で、一瞬、青い光が瞬く。
まるで彼らのことを“観察している”かのように。
その光に応じるように、足元の岩盤が低く唸った。
風が一瞬止まり、次の瞬間――渦が彼らを包み込む。
砂塵が舞い上がり、視界が白に染まる。
「……来るぞ!」
ジェイジーが盾を構える。
突風を裂いて、鋼の羽を持つ鳥型の魔獣が飛び出した。
翼が一閃するたび、空気が裂け、地面が削れる。
「風精の残滓……! 理の乱れで魔物化してる!」
「そりゃあ面倒くせぇ! 坊、嬢ちゃん、後ろに入りな!」
ジェイジーの盾が唸りを上げる。
風刃を正面から受け止め、金属音が空に響いた。
カイトが魔導板を起動し、観測データを解析する。
イリスが杖を構え、魔力を励起させる。
「魔力励起――穿て……っ!?
ダメです! 魔力が散らされて、精霊が集まりません!」
風が荒れ、精霊さえも魔物化する環境が三人に牙を向く。
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