34. 新たな出会いと遺跡調査
「おや、だいぶ遅かったじゃないか」
研究室の扉を開けた瞬間、教授の声が飛んできた。
机の上には既に新しい報告書が山積みになっている。
トマトジュースの瓶が三本、空になっているのは見なかったことにした。
「教授、まだ寝てなかったんですか」
「寝る? ああ、そんな習慣もあったね。研究の進捗があるとやはり楽しくてね」
教授は椅子から顔を上げ、カイトのほうを見やった。
「おや、いい顔をしているな。街で何かいいことでもあったのかい?」
「まぁ……平和な日ってやつですよ」
「ふむ、ならもう終わりだ。次の平和は、次の仕事の後だね」
「教授、まだ何も言ってませんけど」
「これから言うんじゃないか」
エリカは机の上から分厚い書類束を持ち上げた。
表紙には「バルム遺構・北端調査依頼」とある。
「バルム……確か、山岳地帯の研究拠点跡ですよね」
イリスが資料を覗き込む。
「正確には、古代の“気候制御装置”の残骸だ。魔導気象塔〈エアロポリス〉。
理の循環構造に関係している可能性が高い。
まぁヘルダム・シンの時みたいに、こちらの早とちりの可能性もあるがね」
教授の瞳がわずかに発見と狂気の光を宿す。
「ただし、あそこは今、魔物の巣窟になっている。
風の流れ、魔力の流れそのものが乱れているせいで、精霊の活動も不安定だ。……つまり…」
「安全ではない、と」
カイトがぼそりと呟く。
「その通りだ。まぁ遺跡が安全だったなら私の研究はとっくに終わってるさ」
教授は満足げに頷いた。
「というわけで、君たち二人に再び行ってもらう。マチルダは報告のため王都で拘束中だ。
護衛は現地で合流する。ギルド経由で手配しておいた。
名は――J・G・ハスター。ガーディアンだ」
「ガーディアン?」
「盾を構えたら竜のブレスも防げるらしい。
まぁ、口は多少わるいみたいだがね」
教授はにやりと笑い、書類をカイトに投げた。
「出発は三日後だ」
「……きっと、本来ならもう少し計画的にいくもんだと思いますけどね」
カイトが受け取った書類を抱え、ため息をつく。
イリスは小さく笑った。
「また、大変そうですね」
「まぁ、俺たちらしいだろ」
窓の外では、月明かりに照らされて塔の影が長く伸びていた。
――そして三日後、二人は旅の支度を整え、再び転送塔の光に包まれた。
ーーーーー
バルム地方の町、リュオ・サルカ。
山風が吹き抜ける高地の街は、乾いた空気に草木の香りが混じっていた。
カイトとイリスは、転送塔から街道を抜け、ギルドの重厚な扉を押し開ける。
中は喧騒に満ちていた。依頼の報告書を持つ冒険者、談笑する傭兵、金属音を響かせる鍛冶職人。
受付で名前を告げると、奥の席に通された。
「依頼主――教授の代理だな」
低く擦れた声が背後からした。
振り返ると、壁際の椅子に一人の男が座っていた。
赤銅色の髪を後ろで束ね、片手には煙草。
厚い盾を背負い、手元のカップにはすっかり冷めたコーヒーが残っている。
目だけが、鈍い金属のように鋭く光っていた。
「……あなたが、ハスターさん?」
「“さん”はいらねぇよ、坊。ジェイジーでいい」
「坊……?」
「若ぇんだから坊で十分だろ。嬢ちゃんもな」
「じょ、嬢ちゃん!?」
イリスが目を瞬かせると、ハスターは肩を竦めた。
「年寄りだからな、許せ。……で、あんたらが例の教授の弟子ってわけか」
カイトは苦笑しながら頷く。
「はい。教授から、バルム遺構の調査依頼を」
「聞いてる。あの女教授とは昔、ちょっとした護衛契約があってな。……ま、あの人は相変わらず人使いが荒ぇ」
「まったく同感です」
「お、意見が合うじゃねぇか。いいぞ坊」
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