3.猫は救いに現れる
森に静寂が戻る。
爆風の余韻が消え、代わりに、軽い足音だけが近づいてきた。
「ふむ、運が良いニャ。あんなものに襲われて、まだ生きてるとは」
聞こえてきたのは、落ち着いた、それでいてどこか間の抜けた声。
海斗はおそるおそる顔を上げた。
そこにいたのは、腰まで届く赤いマントを羽織り、つば広の帽子をかぶった――二足歩行の猫だった。
金色の瞳がきらりと光り、腰に差したレイピアから銀の刃が覗いている。
猫は器用に帽子のつばを持ち上げ、軽く会釈した。
「改めてご挨拶を。吾輩はダルニャータ。
旅の剣士にして、愛妻家ニャ。君、落人かニャ?」
猫が、しゃべった。
「……え、しゃべっ……た?」
「ふむ、反応が鈍いニャ。まぁ、さっきのヤツに襲われた後だし、しょうがにゃいニャ。
ちなみに声は出るニャ。言葉も話すニャ。文法もおおむね正しいニャ」
「……猫が自分で文法語ってる……」
「ふむ、ツッコミが入るということは、まだ余裕があるということニャ。良きことだニャ」
そう言って、猫――ダルニャータは微笑んだ。
その仕草がやけに自然で、逆に現実感がなかった。
「君、人族ニャね? 匂いが違う。異界の香りがするニャ」
「異界……? いや、俺は――」
言葉を途中で止めた。
言い訳のしようがなかった。
見知らぬ森、巨大な化け物、そして喋る猫。
ここが“普通”ではないことだけは、嫌というほど理解している。
「とりあえず、座るニャ。足が震えてるニャ」
「いや、そんな……」
「安心するニャ、吾輩に害意はない。今の魔物も、もう動かんニャ」
言い終わる前に、ダルニャータは軽く剣を振った。
すると、近くの木の根が動き、ちょうどいい高さの切り株が生えてくる。
「……物理法則とは?」
「魔法ニャ。便利ニャろ?」
海斗はしばらく言葉を失い、やがて小さく呟いた。
「……便利すぎるだろ……」
少し落ち着きを取り戻したころ、ダルニャータは火打ち石を取り出し、周囲に簡易の結界を張った。
地面に描かれた紋様が淡く光り、森の風を遮断する。
「落ち着いたかニャ?
ここは“大渓谷”の外縁ニャ。魔物の巣に近い。夜になる前に離れた方がいいニャ」
「……あの化け物、まだ生きてるのか?」
「いいや。もう動かんニャ。剣で心核を斬ったニャ」
「心核?」
「魂と体をつなぐ魔素の塊ニャ。そこを断てば、どんな魔物も消えるニャ」
海斗は呆然としながら、ようやく一言を絞り出す。
「……やっぱり、夢じゃないよな?」
「夢なら、わざわざ助けにゃ来んニャ。……さて、君、名前は?」
「え、あ、あぁ……丸山、海斗……です」
「カイトか。いい名ニャ。――では、行くニャ。
あとは歩きながら話すニャ」
そう言って、猫は背を向けた。
その尻尾がゆるやかに揺れ、光を反射して一瞬きらめいた。
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