29. 最下層で見出す理屈
金属の通路を抜けるたび、低い振動が足元を揺らした。
壁の表面には、青白い光が血管のように走っている。
前方のゲートが軋む音を立てて開いた瞬間、三人は反射的に身構えた。
暗闇の中から、鈍色の影がいくつも動き出す。
装甲にひび割れの走った警備ゴーレムが、関節を軋ませながら立ち上がった。
「ゴーレムです!」
イリスの声が響く。
マチルダが前に出て、蒼光を帯びた剣を抜いた。
一閃。重金属が焼けるような音が空間を裂く。
カイトはその背後で魔導板を展開し、構造データを観測した。
魔力の流れが歪み、コアから発生する波動がゴーレムの中枢を共振させている。
「動力源を断てば止まる! 左胸の内部に魔導核がある!」
「了解!」
マチルダの二撃目が走る。火花とともにゴーレムの胸部が砕け、動力が沈黙した。
数体を切り伏せたあと、最後の一体をイリスの風刃が貫く。
機械の呻きが消え、再び静寂が戻る。
奥へ進むと、広間が開けていた。
中央の台座には、都市全体を模した立体模型が浮かんでいる。
線状の光が複雑に絡み合い、外周部には“防壁層”のような構造があった。
そのさらに外――壁面には、影のような存在が描かれている。
形は曖昧だが、人の数十倍はある巨影が、都市を取り囲むように刻まれていた。
「……まるで、何かに囲まれてたみたいだな」
カイトが呟く。
イリスは魔導板を照らし、記録を重ねる。
「やっぱりここ、防衛都市だったんですね。研究拠点じゃなくて――外敵に備えるための施設」
「理の観測ではなく、理そのものを制御し、兵器として使っていた……ってことか」
マチルダが腕を組み、唸る。
カイトは都市模型を覗き込んだ。
光の回路の一部がノイズのように揺れ、断線している。
その“理の糸”は、まるで生体の神経が焼き切れたように震えていた。
「……ここだ。理の流れが、ちぎれてる」
イリスが隣にしゃがみ込み、解析を始める。
「確かに……この制御層、理の循環ラインを司っていた部分です。ここを修復できれば、遺跡の自己修復機構が再稼働するかもしれません」
「試してみよう。理の流れは見えてる。俺が観測を合わせるから、イリスは制御層の再演算を」
「了解。魔導演算開始――共鳴リンク開放!」
イリスの杖先から、細かな光の粒が走る。
カイトの視界には、ちぎれた“理の線”が数値の波として展開していた。
二人の操作が同期するたび、断裂部がわずかに光を取り戻す。
ノイズが収まり、明滅する線がゆっくりと繋がっていく。
「繋がった……!」
イリスが息を呑む。
次の瞬間、床下から低い共鳴音が広がった。
壁面の回路が一斉に点灯し、金属の響きが遺跡全体を包み込む。
重く、静かに――まるで眠っていた都市が息を吹き返すかのように。
「完全修復ではないな。だが、自己修復が再起動したみたいだ」
カイトが結果を確認する。
「ええ……これなら、遺跡全体の暴走は次第に収まっていくはずです」
イリスが微笑み、マチルダが満足げに肩を回した。
「つまり、少しはマシになったってことだね。よし、上出来だ」
振動が収まると、通路の奥から新しい風が吹き抜けた。
カイトは遠くの光を見据えながら、静かに言った。
「……観測するだけで、世界は少しずつ形を取り戻す。
まるで、それが“理”の望みだったみたいに」
マチルダがにやりと笑う。
「理は安定を望む、か。
じゃあエリカや君みたいなのは、理からすりゃ迷惑な破壊者だな。
……でもまあ、世界を動かすのは、いつだってそういう奴らさ。だから面白い」
その言葉に、イリスが小さく息を漏らし、カイトはただ黙って笑った。
静寂の中、中央コアの光が一度だけ脈打ち――まるで、彼女の言葉に応えるように輝いた。
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