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零界を旅する一般人  作者: 獏麒


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28.古代遺跡の全容を掴む


 氷が砕け、広間に静寂が戻っていた。

 冷気の残る空気の中、三人は中央コアの前に立ち尽くす。

 青白い光は安定し、まるで何事もなかったかのように脈を刻んでいた。


「……制御層、完全に安定化しました。コアの出力も正常値です」

 イリスが魔導板を見つめ、ほっと息をつく。

 その肩越しに、カイトは壁面の装置を見ていた。滑らかな金属の表面に、複数の紋様と古代文字が刻まれている。


「これ……やっぱり変だな」

 カイトが壁面の装置を見上げながら呟いた。

 表面を走る紋様の一部が、まるで網のように外側へ伸びている。

「研究用の制御装置にしては、向きが違う気がする。エネルギーを中心に集めるんじゃなくて、外に向かって流してる……まるで“外壁全体に分散”してるみたいだ」


「……つまり、攻撃ではなく防御に使われていた?」

 イリスが魔導板を操作しながら反応する。

「でも、今までの調査結果では〈ヘルダム・シン〉は古代の研究拠点とされていましたよ。

 精霊を介さずに魔法を使えたという記録が残っていたので、魔導技術の研究施設だと考えられていたんです」


「その調査結果が間違ってたんじゃないか? 今回この遺跡に実際に来て、私は都市のような印象を持ったよ」

 マチルダが壁を拳で軽く叩く。鈍い音が返ってくる。

「うん、間違いっていうより……“見誤ってた”のかも」

 カイトが視線を巡らせる。

 床の紋様、通路の配置、動力の分配――どれも“守る”方向に最適化されていた。

「オリジンの技術力じゃ、ここに使われてる構造を研究装置だと思っても仕方ないかも。多分、それだけ時代や発想の隔たりがある。

 理を制御するための技術を“研究”してたんじゃなくて――“運用”してたんじゃないかな」


「運用……つまり、実際に使っていた?」

「うん。防衛とか迎撃とか……。ここは何かを守るために造られた“都市”で、

 そうした設備を精霊を介さずに理で制御していたから、研究拠点だと勘違いされてたのかもしれない」


 イリスは沈黙し、壁面に刻まれた古代文字を指でなぞる。

 部分的に欠けているが、いくつかの単語が読み取れた。

 ――〈防壁制御〉〈迎撃層稼働〉〈住居層避難〉。


「……これは防衛時の動作記録、あるいは制御手順のようなものですね。

 本当に防衛関連の語句ばかりです。それに、“理の観測”や“研究”を示す単語は一つも出てきません。

 ……あ、実験という単語があります。……食材再構築実験?」


「それって、スライムが出てきた部屋に書いてなかった? やっぱりここはただの研究所じゃなかったんだ」

 カイトが言いながら中央コアを見上げる。

 あの巨大な結晶――それ自体が都市全体を維持するための心臓のように思えた。


「ふむ。理を守るための砦……いや、“人を守るための理”ってとこかね」

 マチルダが静かに呟く。

「だが、もしそうなら――この遺跡の外では食糧を取れない、または賄えないほど危険だった可能性もあるね。いったい、何がいたんだか」


 誰も答えられなかった。

 ただ、崩れた床の隙間から、微かに風が吹き抜ける。

 その風の向こう、闇の底で何かがかすかに光った。


 イリスが身を強張らせ、魔導板を構える。

「……下層に反応。動体反応です。どうしますか?」

 マチルダが笑い、剣を担ぐ。

「はは、いいね。もちろん行くだろう? 真相を確かめるには、もう少しばかり降りていく必要がありそうだ」

 カイトも頷き、視線を闇の奥へ向けた。


「行こう。まだこの都市の暴走は、止まっていない」

読んでくださりありがとうございます。

次回もお時間をいただけると嬉しいです。


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