24.理を呑み込むモノ
未踏区域は、まるで別の世界のようだった。
溢れる魔力で金属と岩の混じる壁は変質し、その肌を明滅させている。天井からは時折り細い魔力の筋が垂れている。理の流れが狂い、光と影が交互に瞬いた。
「この辺りは、もう記録にありませんね」
イリスが魔導板を操作しながら眉をひそめる。
「地図の範囲外……理論上、中央区画に近いはず、だっけ?」
「ってことは、もう一歩で核心ってわけか」
マチルダが笑い、剣の柄を軽く叩く。その音に呼応するように、前方の壁が動いた。
岩盤を押しのけるように現れたのは、灰色の鎧をまとった無人の巨体。
魔導炉の脈動を胸に宿し、ゆっくりと視線を上げる。
「……警備ゴーレム。遺跡が生きてても、ゴーレム自体の稼働限界をとうに超えてるのに、まだ動いてるなんて」
「つまり、敵ってことだな」
「ちょっと待って! 分析を――」
イリスの言葉を待たず、マチルダが一歩踏み出した。
金属音とともに剣が閃き、青い光が走る。ゴーレムの腕が叩き落とされ、空気が震えた。
「ちょ、ちょっと⁉︎ せめて記録を――!」
「後でゆっくり見ればいいさ!」
剣が横薙ぎに振り抜かれるたび、火花のような理の粒が散った。
イリスは防御結界を張り、残留魔力の波形を測定する。
カイトはその光景を、ただ目を凝らして見つめた。
理の流れが断たれる瞬間――青い線が砕け、空間そのものが波打つ。
ゴーレムが崩れ落ちると、周囲の明滅が止まった。
マチルダが肩を回しながら言う。
「ふぅ、こんなもんだな。古代の守衛も大したことない」
「対処できるのマチルダさんくらいですよ。これが“正常に稼働していた”ら、私たちじゃ勝てませんよ……」
イリスが息を整えながら苦笑した。
奥へ進むと、空間は大きく開けていた。
中央に円形の台座、その周囲には破損した魔力管が絡みつくように伸びている。
壁際には、ひとつだけ異質な装置――赤いスイッチのような突起が床にあった。
「……絶対踏んじゃダメなやつですね」
「あからさますぎる。周りを調べて何か分かったらにしよう。」
イリスが眉をひそめ、カイトも賛同し、慎重に距離を取る。
「うん?踏まないのかい?」
「マチルダさん⁉︎」
「冗談だよ、冗談」
そう言いながらも、彼女の視線は明らかにスイッチを捉えていた。
カイトとイリスは周囲の部屋を調べ始めた。
床には文字列の断片、壁には古代の研究記録のようなものが刻まれている。
「“食…再…築実験区域”……掠れてて読めないわね。ここで、理の変質を制御していたのかも」
「それが崩壊して、今の暴走状態を――」
そのとき。
背後から、乾いた「カチッ」という音が響いた。
「……え?」
イリスがゆっくりと振り向く。
スイッチを前に、マチルダが気まずそうに答えた。
「……いやぁ、やっぱり気になってね、つい…」
低い唸りとともに、床が震えた。
天井の亀裂から液体のような魔力が滴り落ち、蒼光が波紋のように広がっていく。
それはみるみる形を変え、半透明の巨体となって蠢いた。
――スライム。
しかし、通常のものとは明らかに異なる。
理の光を孕んだ粘体が床を溶かし、内部で何かが脈動していた。
カイトは息を呑む。
マチルダが剣を構え、イリスが叫んだ。
「マチルダさん! 今度こそ本当に触っちゃいけないやつだったんですよ⁉︎」
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