23.理に沿った解答
奥へ進むほどに、空気が冷たくなっていった。
崩れた回廊の壁面には複雑な文様が走り、金属と鉱石が入り混じった線が淡く発光している。
道の先に、黒い扉のようなものが立ちはだかっていた。魔力の流れが遮断され、まるで“拒絶”の気配を放っている。
「ふむ……どう見ても、叩けば開きそうだな」
マチルダが剣の柄を鳴らしながら近づく。
「待ってください!」
イリスが慌てて前に出た。
「これは古代制御装置の“封鎖機構”です。無理に壊すと、遺跡の防衛システムが作動して、警備ゴーレムが殺到します!」
「壊すなって言われると、余計に壊したくなるんだよなぁ」
「だめです!」
イリスはしゃがみこみ、魔導板を展開した。
青い光の線が扉の表面をなぞり、浮かび上がる文様を解析していく。
「……多層式の暗号回路。理の式を三重に組んで、認証を変数ごとに書き換えてる……面倒な構造ですね」
彼女は額にかかった髪を払い、指先で一つずつ印を結んだ。
薄く光る符号が扉の表面に流れ込み、数式のような紋が崩れていく。
やがて「カチリ」と音がして、扉の紋が静かにほどけた。
「解除、完了です」
イリスが息を吐く。
「……ほぉ。理屈で開けるとは、芸術的だね」
「当然です。力任せより確実です」
マチルダは笑いながら肩をすくめた。
「そうかい、でも壊せば十秒で終わるぞ?」
「ダメです。マチルダさんが暴れたら遺跡ごと終わります」
二人のやり取りに、カイトは思わず吹き出した。
開かれた扉の先は、静まり返った広間だった。
壁には古代文字が並び、中央には円形の台座。上部の結晶が淡く脈打っている。
マチルダが周囲を一瞥し、剣を収めた。
「魔力の流れが安定してるな。ここなら今夜は休めそうだ」
イリスも頷く。
「防護区画ですかね。魔力が安定してるのは結界構造がや閉じていたからみたいです」
三人は装備を下ろし、それぞれ座についた。
カイトは携帯食料の封を開け、スープ用の魔導加熱器を取り出す。
湯気とともに、淡い香りが広がった。
「へぇ、ギルド御用達のペミカンだ。よく準備できたね。そっちの丸いのは?」
「ペミカンの方は教授が懇意にしてるらしくて…?準備リストに二重丸で強調されてました」
「こっちは実験食の延長ですよ。味は保証できませんけど」
マチルダの問いに、カイトが苦笑しながら返し、イリスも微笑む。
当の本人といえば、背中の鞄から酒瓶を取り出していた。
「なかなか豪勢じゃないか。研究も調査も、腹が減っちゃ戦えないからな」
「……それ、戦う前提じゃないですか」
湯気の立つスープを啜りながら、三人は今日の記録をまとめる。
イリスが魔導板を広げ、半透明の地図を浮かべた。
「ここまでが既知の構造です。明日はこの先――未踏区画に進みます。
中央コアの位置は不明ですが、理の共鳴波を追えば辿れるはずです」
カイトはうなずき、記録端末に手を置いた。
「観察、記録、推定……俺の役割だね」
「そう。危険区域では私とマチルダさんが前に出ます。あなたは決して無理をしないで」
「あぁ、わかった。マチルダさんはともかく、イリスに守られるのは……ちょっと自信なくすけどね」
火照った空気の中、静かな時間が流れる。
外では霧が濃くなり、遺跡全体が遠くで低く鳴動していた。
マチルダが酒を一口飲み、満足げに笑う。
「さて――明日は何に会えるかね」
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