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零界を旅する一般人  作者: 獏麒


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23/51

23.理に沿った解答


 奥へ進むほどに、空気が冷たくなっていった。

 崩れた回廊の壁面には複雑な文様が走り、金属と鉱石が入り混じった線が淡く発光している。

 道の先に、黒い扉のようなものが立ちはだかっていた。魔力の流れが遮断され、まるで“拒絶”の気配を放っている。


「ふむ……どう見ても、叩けば開きそうだな」

 マチルダが剣の柄を鳴らしながら近づく。

「待ってください!」

 イリスが慌てて前に出た。

「これは古代制御装置の“封鎖機構”です。無理に壊すと、遺跡の防衛システムが作動して、警備ゴーレムが殺到します!」

「壊すなって言われると、余計に壊したくなるんだよなぁ」

「だめです!」


 イリスはしゃがみこみ、魔導板を展開した。

 青い光の線が扉の表面をなぞり、浮かび上がる文様を解析していく。

「……多層式の暗号回路。理の式を三重に組んで、認証を変数ごとに書き換えてる……面倒な構造ですね」

 彼女は額にかかった髪を払い、指先で一つずつ印を結んだ。

 薄く光る符号が扉の表面に流れ込み、数式のような紋が崩れていく。

 やがて「カチリ」と音がして、扉の紋が静かにほどけた。


「解除、完了です」

 イリスが息を吐く。

「……ほぉ。理屈で開けるとは、芸術的だね」

「当然です。力任せより確実です」

 マチルダは笑いながら肩をすくめた。

「そうかい、でも壊せば十秒で終わるぞ?」

「ダメです。マチルダさんが暴れたら遺跡ごと終わります」

 二人のやり取りに、カイトは思わず吹き出した。


 開かれた扉の先は、静まり返った広間だった。

 壁には古代文字が並び、中央には円形の台座。上部の結晶が淡く脈打っている。

 マチルダが周囲を一瞥し、剣を収めた。

「魔力の流れが安定してるな。ここなら今夜は休めそうだ」

 イリスも頷く。

「防護区画ですかね。魔力が安定してるのは結界構造がや閉じていたからみたいです」


 三人は装備を下ろし、それぞれ座についた。

 カイトは携帯食料の封を開け、スープ用の魔導加熱器を取り出す。

 湯気とともに、淡い香りが広がった。

「へぇ、ギルド御用達のペミカンだ。よく準備できたね。そっちの丸いのは?」

「ペミカンの方は教授が懇意にしてるらしくて…?準備リストに二重丸で強調されてました」

「こっちは実験食の延長ですよ。味は保証できませんけど」

 マチルダの問いに、カイトが苦笑しながら返し、イリスも微笑む。

 当の本人といえば、背中の鞄から酒瓶を取り出していた。

「なかなか豪勢じゃないか。研究も調査も、腹が減っちゃ戦えないからな」

「……それ、戦う前提じゃないですか」


 湯気の立つスープを啜りながら、三人は今日の記録をまとめる。

 イリスが魔導板を広げ、半透明の地図を浮かべた。

「ここまでが既知の構造です。明日はこの先――未踏区画に進みます。

 中央コアの位置は不明ですが、理の共鳴波を追えば辿れるはずです」

 カイトはうなずき、記録端末に手を置いた。

「観察、記録、推定……俺の役割だね」

「そう。危険区域では私とマチルダさんが前に出ます。あなたは決して無理をしないで」

「あぁ、わかった。マチルダさんはともかく、イリスに守られるのは……ちょっと自信なくすけどね」


 火照った空気の中、静かな時間が流れる。

 外では霧が濃くなり、遺跡全体が遠くで低く鳴動していた。

 マチルダが酒を一口飲み、満足げに笑う。

「さて――明日は何に会えるかね」


読んでくださりありがとうございます。

ストック無くなってしまったので今日は1話です。


次回もお時間をいただけると嬉しいです。


応援してくださるという優しいなは

レビューとか評価、感想、批評、ブックマークとかしていただくと作者が泣いて興奮して喜びます。

あと、ストックが早く溜まるかもです。よろしくお願い致します。

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