22.力こそ理(ことわり)
赤岩の谷を抜けると、風が一変した。
霧の奥から吹き下ろす空気は、熱と冷気が入り混じり、皮膚の上を逆撫でしていく。
岩壁の間を抜けた先――それはまるで世界がひとつ歪んだような光景だった。
崩れた城壁の断面には金属と石が複雑に絡み、内部で青白い光が脈動している。
ひび割れた地面の隙間からは、蒸気のような魔力が立ち上り、空に淡く滲む。
そのすべてが、まるで“理”そのものの呼吸のようだった。
「……これが、ヘルダム・シン」
イリスが息を呑む。魔導板に走る線が不安定に点滅していた。
「信号が乱れてます。周波数が……一定じゃない」
「周波数?」
「魔力の振動周期です。生きている遺跡に近い。動力源がまだ稼働してる可能性がある」
マチルダは口笛を吹き、剣の柄を軽く叩いた。
「つまり、踏み込みすぎると目を覚ますかもしれないってことか。……上等だね」
「そういう意味じゃありません!」
イリスの声が裏返るが、マチルダは構わず進む。
三人は崩落した外壁の隙間から、地下へと続く螺旋通路に足を踏み入れた。
壁面は鏡のように滑らかで、金属と鉱石の境界が曖昧になっている。
淡い光の粒が流れるように移動し、どこか遠くで低い拍動音が響いていた。
「……何か、聞こえるな」
「はい。やはり、まだ生きているんだと。ここは研究拠点として作られたと考えられていて、おそらく中央コアのようなものがこの共鳴音を出しているのでしょう。理の歪みが音として現れてる」
イリスが説明する間にも、カイトの視界に淡い光の線が走る。
壁を伝い、空中を漂い、床の文様へと集まっていく――まるで“理の流れ”そのものが見えるようだった。
突然、カイトの足元で光が跳ねた。
「っ――!」
床の紋様が起動し、空気が一瞬張り詰める。
魔力の反応が膨張し、床の一部が沈み始めた。
「むっ! てぇぇぇい!!」
マチルダが咆哮と共に剣を突き立てた。
瞬間、刃の刻印が蒼く輝き、衝撃波が地面を押し返した。
落下しかけた床が元に戻り、起動しかけた魔導機構が一斉に停止する。
金属の鳴動が消え、再び静寂が戻った。
「危なかった……完全に生きてるわね、この遺跡。やっぱりカイト君の理論的魔法の契約に反応したのかしら」
イリスが額の汗を拭いながら呟く。
カイトは膝をつき、指先で床の紋様をなぞった。
先ほどの光の痕跡などはまったくなく、むしろうっすら煙が上がっている。
「……マチルダさん? 今どうやって止めたの?」
カイトが一抹の不安と共に尋ねる。
「ん? 剣戟に魔力をのせて無理矢理捩じ込んだんだよ。こういうのは叩けば止まるんだ」
イリスが先ほどとは違う汗をかきながら叫ぶ。
「えっ……探索早々に遺跡壊しちゃったんですか⁉︎ 今の現象こそ“理の干渉”の一端だったかもしれなかったのに!」
マチルダは剣を背に戻し、笑いながら肩をすくめた。
「まぁ今のは、きっと床が抜けていたから結果オーライでしょ? それに――私の直感では、これからもっと面白くなるさ」
地面のひび割れからは微かな蒸気が漏れ、時おり雷のような音が遠くで鳴った。
まるで遺跡そのものが、彼らの到来を察して目を覚ましたかのようだった。
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