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零界を旅する一般人  作者: 獏麒


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20.右腕の反乱と依頼の詳細


 扉の向こうから、足音と声が近づいてくる。


「――だから、私も行きます!」

「ダメよ。あなたがいなくなったら誰が私の書類整理と生活管理をするの?」

「そんな理由ですか!? 研究者として当然の興味です!」


 勢いよく扉が開き、教授とイリスが言い合いながら戻ってきた。

「まったく、本当に自分の身のことしか考えてないんですから……」

 イリスは頬を膨らませ、書類の束を机に置いた。

「エリカ教授。調査ですよ? 未知の遺跡に理の断片が眠っているかもしれないんですよ? 暗号、構造、魔力干渉、未知の法則――行かない理由のほうが少ないです!」

「だからこそ、危ないわよ。あなたまで倒れたら、私もご飯なくて死んじゃうわ」

「それを引き留める理由にしないでください!」


 二人の応酬に、カイトは苦笑するしかなかった。

 その隣でマチルダが肩をすくめ、酒瓶を揺らす。

「相変わらずだね、あんたたち。まるで漫才だ」

「マチルダ……あなた、また飲んでるの?」

「エリカ、こっちは喉が渇くほど依頼をこなしてるんだ。報酬の前払いってやつさ」

「報酬の単位が酒なの、あなたくらいよ」

 そう言いつつも、エリカの声にはどこか懐かしさがあった。


 マチルダが軽くグラスを掲げる。

「まあ、今回はあんたの新しい弟子もいるしね。面白そうな調査だって聞いた」

 教授はかすかにため息を吐き、わずかに頷いた。

「ギルドにも提出した正式な依頼、〈ヘルダム・シン〉の調査よ」


 空気が一瞬、引き締まる。

 エリカは机の上に地図を広げ、赤い印を指で示した。

「ここ。アーカム・ネリアから一番近い古代遺跡。転送塔で北東区に飛べば、半日ほどで着く場所よ。地表には一部の構造物が露出しているけど、本体は地下。過去に“理の断片”が複数出土している、有力な遺跡の一つ」

「理の断片……それって、教授の研究テーマの?」

「そう。理そのものに干渉した痕跡。記録装置とも、結界核とも言われているけど、まだ誰も仕組みを解明できていない。今回の目的は、出土地点の再調査と――」

 エリカはカイトを見た。

「君に組んだ理論魔法が、遺跡でどんな“干渉”を起こすか確認したいの」


 イリスが食い気味に身を乗り出す。

「教授! なおのこと私が行くべきです! 現地でデータを採る人が必要でしょう?」

「ダメよ。あなたがいないと、報告書が作れないじゃない」

「そんなの帰ってから書きます!」

「帰ってくる保証がないから困ってるのよ」

 マチルダが吹き出した。

「いいじゃないか。あんたの右腕が行くって言ってるんだ。私もいるし、万が一のときは連れ帰ってくる」

「……はぁ、あなたが言うと余計に不安になるのよ」

 教授はこめかみを押さえ、しばらく黙り込む。

 そして、観念したように息を吐いた。

「……わかったわ。イリス、現地での記録を頼むわ。ただし、絶対に無茶はしないこと」

「はいっ!」


 研究室の空気が一気に明るくなった。

 マチルダが笑みを浮かべ、カイトの肩を叩く。

「よかったな、坊や。これで両手に花だぞ?」

「坊やはやめてください……」

「ふーっ、イリスも頑固なんだから。まぁあとは実地だけよ」

 教授の眼差しの奥には、知への渇望と、どこか危うい期待が入り混じっていた。

読んでくださりありがとうございます。

本日2話目です。


今後もよろしくお願いします。


応援してくださるという優しい方は

レビューとか評価とかブックマークとかしていただくと作者が泣いて興奮して喜びます。

あと、ストックが早くたまるかもです。よろしくお願い致します。

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