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零界を旅する一般人  作者: 獏麒


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19/51

19.嵐を呼ぶ女


 研究室に戻ると、部屋は静まり返っていた。

 カップが伏せられたままの机、半開きの本棚、そして−−肝心の教授の姿がない。


「おかしいですね……寝てるにしては静かすぎる」

「まさか、また講義室で寝落ちしてるとか?」

「あり得ますね。少し探してきます。カイト君はここで待っててください」


 イリスは小さくため息をつき、書類を抱えて部屋を出ていった。


 扉が閉まると、研究室には時計の針の音だけが残る。

 カイトは椅子に腰を下ろし、机の上の装置をぼんやりと眺めた。

 金属の球体が微かに回転し、青い光を放っている。

 それはどこか、鼓動のようでもあった。


 静かだな……教授がいないと、別の場所みたいだ。


 そう思った瞬間――勢いよく扉が開いた。


「なにやら、面白い依頼があるって聞いてね!」


 低く艶やかな声と共に、ひとりの女性が颯爽と入ってきた。

 黒に近い紺色の髪が光を受けて揺れ、短く整えられた前髪が鋭い眼差しを際立たせる。

 肩には漆黒のマント、身体に沿う黒革の軽装鎧が陽光を反射して微かに輝いていた。

 腰の剣には魔法刻印が走り、鞘がわずかに蒼光を帯びている。

 その姿は、まるで嵐を引き連れた戦士のようだった。


「ドワーフの里を荒らす大蛇は、早々に刻んできたよ!」

 彼女は笑いながら、一直線に棚のほうへ向かう。

 カイトは呆気に取られたまま立ち上がった。


「あの……どちら様ですか?」

「とりあえず、飲み物でももらうよ」

 返事も聞かずに棚を開け、迷いなく瓶を取り出す。

 ラベルには“警告:燃焼性注意”の文字。


 カイトが止める間もなく、一息に半分ほどを呷る。

「え、それ飲み物なんですか!?」

「当然だろう? 飲めば体の魔力循環が三倍速くなる。……まぁ、心臓も三倍動くけどね」

「いやいやいや! ただの危険物ですよ!」


 彼女は気にも留めず、さらに一口。

 強い酒の香りが部屋中に広がった。


「ふぅ……で、依頼を聞こうじゃないか!」

「い、依頼?」

「そう。教授に呼ばれてきたんだが……あれ? 君は誰だい?」

 ようやくこちらを向いた彼女の瞳は、琥珀のように深く輝いていた。


「えっと、カイト――カイト・ランディーニです。落人で教授の助手兼、養子で……」

「ほう? ランディーニ? 教授が養子をとった? あの気まぐれ女神が?」

 彼女は愉快そうに笑い、瓶を掲げた。

「ふーん、なるほど。あの人が興味を持つだけのことはある。……君、中々いい顔じゃないか」

「あ、ありがとうございます……?」

「顔に書いてある。“理の外側”を覗いた奴の目だ。それでいて、まだ先を求めてる」


 カイトは息を呑んだ。

 まるで、心の奥をそのまま読まれたような感覚だった。


 彼女は瓶を空にし、軽く肩を回す。

「改めて名乗ろう。マチルダ・ハートランド。特級冒険者、周りからは“人族最強の一角”なんて呼ばれてるが、そんな大層なもんじゃない」

「気まぐれで依頼をこなす酒飲みさ。教授とはそれなりの仲でね。面白そうな話に飛びついたってわけさ」

「はぁ……人族最強の酒飲み、ですか」

「そう。あとは、君みたいなビギナー冒険者が死なないようにするための先導役だな」


 その言葉に、カイトは思わず苦笑した。

 彼女の登場と同時に、静かな研究室の空気が一変していた。

 まるで嵐が通り過ぎた後のように――熱と風だけが残っていた。

読んでくださりありがとうございます。

2話予定です。



応援してくださるという優しい方は

レビューとか評価とかブックマークとかしていただくと作者が泣いて興奮して喜びます。

あと、ストックが早くたまるかもです。よろしくお願い致します。

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