18.冒険には準備がつきもの
ギルドの商業区は、朝の市場のように賑わっていた。
装備職人の呼び込みや鍛冶の火花、魔導具の共鳴音が混ざり合い、街の活気がひときわ濃い。
カイトはイリスに案内されながら、探索用の装備を一つずつ整えていく。
軽い皮鎧に胸部を覆う軽装のプレート、簡易防御結界を内蔵した外套、魔力計測付きのコンパス。
どれも彼には見慣れぬ品ばかりだが、手に取るたびに金属の温度と魔力の流れが確かに感じられる。
「意外と似合ってますね。初めてにしては悪くないですよ」
「あー……ありがとう。冒険者ってもっと粗野というかそんな気がしてたけど、やっぱり見た目も大事?」
「ええ、案外重要なんですよ。人は“強そう”に見える相手には絡みにくいですから」
イリスは小さく笑いながら、カイトの外套の留め具を直す。
カウンターの店主が満足げに頷き、最後の品を包装した。
紙袋から立ち上る香りは、油と魔導触媒の混じった独特なものだった。
「教授の装備指定、毎回ちょっと変わってますけど、今回はずいぶん実戦寄りですね。剣までリストに入ってますよ」
「たぶん、俺が戦えないのを見越して……だと思う」
「そうかもしれません。でも教授のことだから、“想定外の成果”を狙ってるんでしょうね」
ギルドの登録窓口で、イリスが手際よく手続きを進めていく。
周囲には他の冒険者たちの笑い声や、依頼書の擦れる音が絶えない。
その中で、カイトはふと、自分の立場を思い出す――落人、補助員、養子、そして冒険者。
いつの間にか肩書きが増えていく自分に、少しだけ苦笑した。
「カイト君、ここの署名をお願いします。探索申請の確認です」
「はい。……えっと、〈ヘルダム・シン〉調査依頼、代表依頼者:エリカ・ランディーニ……」
「職員さん、教授の名前見るだけで緊張してますね」
「これだけで“また来たか”って顔されるのって中々だよね」
二人の軽口に、受付の職員が小さくため息をついた。
「……失礼ですが、こちらの依頼にはすでに別の冒険者が登録されていますよ」
「え?」カイトが顔を上げる。
「教授から手配があったみたいですね。同行者として“マチルダ・ハートランド”の名が登録されています」
その名を聞いた瞬間、イリスの表情がわずかに引き締まった。
「……あの人が来るんですね」
「知ってるんですか?」
「ええ。教授とは旧知の仲です。たぶん――今回の“保険”でしょうね」
イリスの声にはわずかな苦笑が混じる。
それが安心と警戒のどちらなのか、カイトには判断できなかった。
「マチルダ・ハートランド。人族最強のひとり、と呼ばれている冒険者です」
受付の職員が付け加えた言葉に、周囲の冒険者たちが一斉にざわめいた。
カイトは呆然と立ち尽くし、手にした書類を見下ろした。
「……そんな人と組むのか、俺……」
「教授らしい人選ですね。たぶんあなたに、何かを見せたいんでしょう」
イリスは肩をすくめ、柔らかく笑う。
「とにかく、準備はこれで完了です。あとは装備の調整と、心の準備くらいですね」
「心の準備って、物理装備より難しそうだな……」
「大丈夫。教授の弟子はみんな、最初そう言うんです」
二人がギルドを出ると、午後の風が通りを抜けた。
遠くの鐘楼が響き、街の空気が金色に染まる。
カイトは胸のカードを確かめるように握りしめた。
――古代遺跡〈ヘルダム・シン〉。未だ解析の進まない未知に挑む。
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