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零界を旅する一般人  作者: 獏麒


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18/51

18.冒険には準備がつきもの


 ギルドの商業区は、朝の市場のように賑わっていた。

 装備職人の呼び込みや鍛冶の火花、魔導具の共鳴音が混ざり合い、街の活気がひときわ濃い。

 カイトはイリスに案内されながら、探索用の装備を一つずつ整えていく。

 軽い皮鎧に胸部を覆う軽装のプレート、簡易防御結界を内蔵した外套、魔力計測付きのコンパス。

 どれも彼には見慣れぬ品ばかりだが、手に取るたびに金属の温度と魔力の流れが確かに感じられる。


「意外と似合ってますね。初めてにしては悪くないですよ」

「あー……ありがとう。冒険者ってもっと粗野というかそんな気がしてたけど、やっぱり見た目も大事?」

「ええ、案外重要なんですよ。人は“強そう”に見える相手には絡みにくいですから」

 イリスは小さく笑いながら、カイトの外套の留め具を直す。


 カウンターの店主が満足げに頷き、最後の品を包装した。

 紙袋から立ち上る香りは、油と魔導触媒の混じった独特なものだった。


「教授の装備指定、毎回ちょっと変わってますけど、今回はずいぶん実戦寄りですね。剣までリストに入ってますよ」

「たぶん、俺が戦えないのを見越して……だと思う」

「そうかもしれません。でも教授のことだから、“想定外の成果”を狙ってるんでしょうね」


 ギルドの登録窓口で、イリスが手際よく手続きを進めていく。

 周囲には他の冒険者たちの笑い声や、依頼書の擦れる音が絶えない。

 その中で、カイトはふと、自分の立場を思い出す――落人、補助員、養子、そして冒険者。

 いつの間にか肩書きが増えていく自分に、少しだけ苦笑した。


「カイト君、ここの署名をお願いします。探索申請の確認です」

「はい。……えっと、〈ヘルダム・シン〉調査依頼、代表依頼者:エリカ・ランディーニ……」

「職員さん、教授の名前見るだけで緊張してますね」

「これだけで“また来たか”って顔されるのって中々だよね」

 二人の軽口に、受付の職員が小さくため息をついた。


「……失礼ですが、こちらの依頼にはすでに別の冒険者が登録されていますよ」

「え?」カイトが顔を上げる。

「教授から手配があったみたいですね。同行者として“マチルダ・ハートランド”の名が登録されています」

 その名を聞いた瞬間、イリスの表情がわずかに引き締まった。


「……あの人が来るんですね」

「知ってるんですか?」

「ええ。教授とは旧知の仲です。たぶん――今回の“保険”でしょうね」

 イリスの声にはわずかな苦笑が混じる。

 それが安心と警戒のどちらなのか、カイトには判断できなかった。


「マチルダ・ハートランド。人族最強のひとり、と呼ばれている冒険者です」

 受付の職員が付け加えた言葉に、周囲の冒険者たちが一斉にざわめいた。

 カイトは呆然と立ち尽くし、手にした書類を見下ろした。


「……そんな人と組むのか、俺……」

「教授らしい人選ですね。たぶんあなたに、何かを見せたいんでしょう」

 イリスは肩をすくめ、柔らかく笑う。

「とにかく、準備はこれで完了です。あとは装備の調整と、心の準備くらいですね」

「心の準備って、物理装備より難しそうだな……」

「大丈夫。教授の弟子はみんな、最初そう言うんです」


 二人がギルドを出ると、午後の風が通りを抜けた。

 遠くの鐘楼が響き、街の空気が金色に染まる。

 カイトは胸のカードを確かめるように握りしめた。

 ――古代遺跡〈ヘルダム・シン〉。未だ解析の進まない未知に挑む。


読んでくださりありがとうございます。

本日、2話目です。


明日もお時間をいただけると嬉しいです。


応援してやるかっという優しい方は

レビューとか評価とかブックマークとかしていただくと作者が泣いて興奮して喜びます。

あと、ストックが早くつくれるかもです。よろしくお願い致します。

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