17.調査依頼を受ける
イリスの講義で海斗は、世界を支える“六基柱”と精霊の理を学び、魔法の本質が理の翻訳にあると知る。教授の目指す“精霊なき魔法”の片鱗に触れ、正式に冒険者として登録を果たした海斗は、〈カイト・ランディーニ〉として新たな名を得る。旅を共にしたシルヴィーとダルニャータに別れを告げ、未知の理を追う第一歩を踏み出す。
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翌朝のアーカム・ネリアは、淡い霧の中に包まれていた。
高層塔の影が長く伸び、風がガラスの通路を渡っていく。
カイトは昨日よりも慣れた足取りで第七研究棟へ向かった。
廊下の壁を伝う魔導灯が微かに揺れ、扉の前に立つと、聞き覚えのある寝息がかすかに漏れている。
「……教授、やっぱり寝てるな」
そっと扉を開けると、白衣の山の中からエリカが顔を出した。
片手にマグカップ、もう片方で髪をまとめながら、眠たげな目を細めている。
「おはよう、カイト。……で、登録はちゃんと通った?」
「ええ、一応。カードももらいました」
「“一応”ってなに。天才の私の研究成果よ?」
「イリスがギルドの受付さんから小言言われて申し訳なさそうでしたよ?」
「ふふ、あの子は真面目だからね。少しくらい波風が立つのも研究のうちよ」
エリカはくすりと笑い、手元の魔導端末を起動した。
宙に浮かぶ光の板から、古い羊皮紙のような質感の書類が現れる。
それを一枚抜き取り、カイトへと差し出した。
「これが最初の仕事。古代遺跡〈ヘルダム・シン〉の調査依頼書よ。ギルドに提出して、そのまま自分で受けてきて」
「……自分で?」
「当然でしょ。せっかく冒険者登録したんだから、君なりの理を見つけて、後は研究対象をどんどん持ってきてもらわないと。
理論は終わり。君が見つけたもので実験と実証を始めるのよ」
カイトは紙を受け取りながら、眉を寄せた。
羊皮紙の端には、焦げたような跡と魔力の痕跡が見える。
「ヘルダム・シン……って、確か古代文明の遺跡でしたよね?」
「そう。アトラス・シンとは別系統の文明ね。発掘調査が進んでるけど、解析率はまだ三割以下。
研究者の間で“理の断片”が眠る有力候補って言われてるわ」
「俺、まだこの世界の戦い方も分からないのに、いきなり遺跡調査って大丈夫なんですか?」
「心配性ね。戦うのが目的じゃないの。あなたの目と考察が欲しいの。
見たことを記録して、感じたことを考える。それが今の君の仕事よ」
「……でも、調査って危険もありますよね。護衛とか、他の冒険者を雇ったほうが――」
「ああ、その点は心配いらないわ。伝手があるから」
エリカはカップを持ち上げ、コーヒーを啜る。
「出発までには合流するように手配しておく」と軽く言ってのけた。
「君は観察に集中しなさい。戦いは任せて、君は“理屈”を拾ってくればいいの。……それが君の役割」
「理屈を拾う……ですか」
「そう。君は観察者。理解を形にするのが私たち研究者。
戦いができなくても、見る目があれば十分よ。世界の理は、観察できる者の前にしか姿を現さないもの」
エリカは机に広げた地図を指先で叩いた。
都市の南方、複数の結界で覆われた赤い渓谷地帯。そこに“ヘルダム・シン”の名が刻まれている。
「まずは装備を整えなさい。探索用の服と簡易魔導器を貸してあげる。
武器は……まあ、持つだけでも気休めになるかもね」
「教授、その“気休め”って言い方、不安になるんですけど」
「気のせいよ。大丈夫、死にはしないわ。たぶん」
軽く笑いながら、エリカは背後の棚を開けた。
中から取り出したのは、古びた魔導鞄と透明な防護結界の腕輪。
机の上に並べて言う。
「これを持ってギルドへ行きなさい。装備登録と探索準備を済ませて。
明日には出発できるようにしておきたいの」
カイトは書類と装備を抱え、深く息を吸った。
「……了解しました。行ってきます」
「ええ。君の“目”が、どんな理を見つけるか楽しみにしてる」
エリカの声が背中に届く。
扉を開けると、朝の光が差し込み、研究室の埃が金色に舞った。
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