16.風と刃との別れ
登録を終えた後、四人はギルドの外へ出た。
昼の陽光が石畳を照らし、通りを行き交う人々の影が長く伸びている。
喧騒と匂いが渦巻く街の空気の中、カイトは手の中のカードをもう一度見つめた。
硬質な金属の表面に浮かぶ自分の名――〈カイト・ランディーニ〉。
それが、この世界で生きるための証であり、覚悟の象徴だった。
「これで正式に、オリジンでの一歩を踏み出したわけね」
シルヴィーが微笑みながら言う。
「ニャ。これで教授も少しは満足するニャ。……たぶん、寝ながらだけど」
「寝ながら満足って、どんな状態だよ……」
カイトが苦笑すると、ダルニャータが尻尾で軽く背中を叩いた。
「吾輩たちはこのあと、北の区画に戻るニャ。魔導バイクの整備もあるし、次の依頼も来てるニャ」
「…そろそろお別れ、ね…」
シルヴィーの声が、少しだけ柔らかく沈む。
「カイト、あなたのこと、心配してるけど――たぶん大丈夫ね。あの教授の弟子なら」
「弟子というか……養子というか、被験者というか……」
「ふふ、それも含めて“縁”よ」
シルヴィーは優しく笑い、手を差し出した。
カイトもそれを握り返す。
「短い間だったけど、本当にありがとう。二人がいなかったら、今ここにいないと思う」
「なら、恩返しは“生きて学ぶ”ことニャ。世界を見て、理解して、いつか教授に負けない“理屈”を語るニャ」
「……ああ、約束する」
その言葉に、ダルニャータの尻尾が満足げに揺れた。
風が吹き抜け、二つの月が昼の空に淡く滲む。
シルヴィーとダルニャータは軽く手を振り、通りの向こうへと歩き出した。
その背中には、旅を続ける者だけが持つ静かな強さがあった。
背中が小さくなるまで見送って、カイトは小さく息を吐く。
「……あの二人、いい人たちだね」
「ええ。私も教授に出会ってからの知り合いなんですけど、とても良くしてもらってます。教授よりずっと面倒見がいいです」
イリスが微笑む。
「さて、私たちも戻りましょう。教授が起きてたら、報告くらいはしないと」
「起きてる確率、どれくらい?」
「……一割あれば良い方ですね」
「低っ!」
二人の笑い声が、街の風に溶けていく。
夕陽が差し込むと、アーカム・ネリアの高層塔が金色に輝き、影が重なり合って路地に模様を描いた。
街の遠くでは、転送塔の光が再び明滅を始め、誰かが新たな旅へと出る合図を告げていた。
カイトはもう一度、カードを握りしめる。
未知の世界で、カイト・ランディーニとして。
――その名が示す未来を、これから自分の手で書き足していくために。
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