14.食堂で講義を受ける
昼下がりの風巡り亭は、昼食客が引けて穏やかな空気に包まれていた。
窓から差す光が木のテーブルを照らし、風がやわらかに店内を撫でていく。
窓際の席に座ったイリスは、手のひらほどの魔導板を取り出し、指先で軽く叩く。
青白い光が浮かび、宙に六つの円が現れた。
「じゃあ改めて、オリジンの魔法体系についておさらいしましょうか。
まずは“六基柱”――この世界の理を支える、六つの属性です」
「講義始まったニャ」「始まったね」
ダルニャータとシルヴィーが同時に呟く。
イリスは微笑し、板を回転させてカイトの方へ向けた。
「光・闇・火・水・土・風。
この六つはそれぞれが『活性と増殖』『停滞と減衰』『燃焼と侵略』『生命と潮解』『豊穣と固定』『自由と圧力』を司る――世界の基礎概念となります。
魔法はこれらの属性を通して、精霊との契約を結び、力を借りて発動します。」
「なるほど……自然現象と概念が結びついてるんだ」
「ええ。属性は自然現象そのものじゃなく、あくまで“概念”なんです。そして火の精霊は燃える現象そのものじゃない。“燃焼という理”の翻訳者。」
イリスは指で二つの円を重ね、線を引く。
六基柱が交差し、新たな紋章が浮かび上がる。
「これが“複合属性”。雷、氷、木、熱、爆発、溶岩……。
異なる理が共鳴して生まれる派生属性です。
たとえば雷は“光・火・風”の複合。瞬間的な意志の具現化とも言われています。
「雷は吾輩の得意技ニャ!」
「それ、どこで使ってるのよ?」
「トースト焼く時ニャ、一瞬で焼けるニャ!」
「台無しだな……」
イリスは苦笑しながら、説明を続ける。
「ただ属性が混ざると、世界も少しだけ不安定になるんです。だから魔法使いは“主属性”――つまり精霊に好かれやすい属性をつかっていることが多いの」
「好かれやすい、って……どうやってわかるんだ?」
「一番わかりやすいのは、魔法を覚える速度や魔法の威力ですね。火の精霊に気に入られていれば、焔が形になるのが早い。でも嫌われてても火種を出しにくいくらい。」
イリスはスラスラと説明しながら板の表示を切り替えた。
今度は淡く揺らめく粒子の映像が映る。
「さて――精霊について。
さっきも言いましたが、彼らはこの六基柱に宿る“理の翻訳者”です。
魔力を受け取り、イメージを現象へ変える。
目に見えないけど、確かにそこにいて、意思を感じることがあるんです。
翻訳者だから、嫌われていても最低限の仕事はしてくれる。」
「翻訳者……つまり、魔法は精霊が“解釈してくれてる”ってことか」
「正解です。詠唱や魔法名は、その翻訳を助ける“言葉の鍵”なんです。
例えば火属性の燃焼という概念を渡して
魔力を対価に、魔法名というイメージを共有すると火球〈ファイアーボール〉が生まれる。
でも――教授は、その“翻訳”という仕組みそのものを疑ってるの」
イリスの声がわずかに低くなる。
「翻訳者を介さず、“意志と理論”だけで理そのものに触れる魔法が出来るはずだって。
私にはまだ、完全には理解できてないけど……それを実証しようとしてるのが、あなたたちの“契約”であり、教授が目指すのは、その先にある“言語なき理解”です。」
カイトは思わず手元を見た。
胸元の魔法陣の痕――契約の紋が一瞬、光を返した気がした。
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