11.契約と新たな身分 -2-
「まず一つ目。あなたは正式に、“研究補助員”として登録されました」
「……まぁ、この研究室に入るためと身分登録って言ってましたね。それはわかります」
「二つ目。あなたの身元保証が必要だから、“養子”にするわ」
「………………え?」
ペンを持つ手が止まる。
ダルニャータが尻尾で机を叩く。
「教授、また勝手に養子増やしてるニャ。他の子に怒られるニャ」
「合理的な判断よ。落人の法的扱いは複雑だもの。
私の籍に入れて、後見人になっておけば実験も論文提出もスムーズになるでしょ?」
「実験と養子を一緒にしないでください!」
エリカはまったく気にした様子もなく、最後の書類を開く。
「外部調査に出るだけなら研究補助員でいいんだけど。
依頼者になって邪魔な冒険者が増えるのもね……」
カイトを見て少し思案する。
「そうね、カイト、あなた冒険者になっときなさい。
それなら、私の依頼証明があれば遺跡に入れるから」
「……え、そんな簡単に職業決まるの?」
「世界はシンプルな方が動きやすいのよ」
シルヴィーが肩をすくめた。
「シンプルはわかるけど、遺跡に行きたいなら自分で行けばいいじゃない」
「もちろん行きたいわよ? でも歩くのは嫌いなの。現地調査って、埃っぽいし……」
エリカは机に頬を乗せたまま、指先でカップを転がした。
「この体勢も疲れてきたわ」
「めんどくさがりすぎだニャ。今にも机と一体化しそうニャ」
「いいのよ、あなたたちが動けるでしょ? そうよ、研究対象が全部こっちにくればいいのよ。
今日の契約は全部そのためだわ」
「横暴すぎる……
研究補助員、養子、冒険者。いきなり三つも増えたのか、俺」
「養子はともかく後見人は必要だし、悪くない組み合わせニャ。職と身分と保証が揃ってるニャ」
ダルニャータが笑い、シルヴィーが肩をすくめた。
エリカはゆっくりと目を細める。
「世界の理を読むには、いろんな立場が必要なの。
君は“観察者”としても興味深いわ。異界の出身で、当たり前を疑う目を持っている」
「観察者、ですか」
「そう。研究者の端くれなら、世界を疑って見るべきよ。多くの学者は混ざっているのが、精霊に意志を委ねるのが普通だと思ってる。」
彼女の言葉は静かだったが、意志を世界に焼き付けるような熱を持っていた。
窓の外で、二つの月が塔の影を越えていく。
エリカがカップを掲げた。
「ようこそ、私の研究室へ。今日からあなたは――“こちら側”の人間よ。
オリジンの理を解き明かしましょう?」
その笑みは、どこか悪戯っぽく、それでいて誇らしかった。
「教授? せめてもうちょっとちゃんとした格好で言ってあげたら?
せっかく興味持ってくれてそうなんだから」
「えー? 重力が強すぎるのよ……」
緩んだ空気となったが、未知の世界で、
彼の新しい“身分”が静かに、だが確実に刻まれた。
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