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零界を旅する一般人  作者: 獏麒


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10.契約と新しい身分 -1-

 研究棟の奥、窓際の机に並べられた三枚の光板。

 それぞれに淡い紋章が浮かび、規則正しく明滅していた。


「さて、まずは形式的なやつから始めましょうか」

 エリカが白衣の袖をまくり、光板を指先でなぞる。

「あなたを“落人”として保護する以上、こちらにも責任があるの。

 ――正式な契約、そして身分登録」


「契約って……紙に署名とかではなく魔法的なやつですか?」

「正確には“理論魔法的な契約”ね。精霊を介さない、自己完結型の命令式。

 祈りではなく、理解によって発動する魔法よ」


 ダルニャータが目を丸くする。

「教授、また精霊抜きニャ? 本当に動くニャ、それ」

「動くわ。この前は動いたもの。理屈を満たせば、世界は応えるの」


 その言葉に、海斗の胸がわずかに震えた。

 それは、研究室で初めて成功した実験を見た時と似ている。

 神秘ではなく、理解の延長線にある奇跡。


「この契約式を作るきっかけになったのが、古代遺跡群〈アトラス・シン〉よ。

 オリジンの地層の下に眠る文明――彼らは精霊の干渉を受けずに魔導を使っていた。

 その“理”を解き明かせば、私の夢に手が届く」


「夢……ですか?」

「誰にも奪われない魔法。

 感情や信仰じゃなく、意思と理解だけで世界を動かす術。

 それが、私の研究の到達点よ」


 淡々と語るその声に、熱があった。

 知性の奥で燃える炎――科学者が未知に挑むときのあの光。

 海斗は無意識に頷いた。


「――契約内容を確認します。

 丸山海斗、当研究室における研究補助員として登録。

 活動範囲:学内および外部調査区域。権限レベル、暫定D。」


 エリカが手を翳すと、光板の紋章が回転を始める。

 呪文の代わりに、いくつかの数学的な命令列や幾何学模様が空中に浮かび上がった。


 Σ=λ・※(t)×e^啊iθ

 それは、まるで波動関数のような美しさを持ち、だがどこか歪なゆらめきだった。


「――契約、発動」


 瞬間、光が弾け、海斗の胸元に淡い紋章が浮かび、消える。

 痛みも重さもない。ただ、世界の構造が一瞬で接続されたような感覚。


「……これが、精霊抜きの契約……」

「ええ。“理”による約束。破れば、世界の構造があなたを拒む……はずよ」

「はずって言った!?」

「危険な契約じゃないわ、今まで事故も起きてないし。破る予定がなければ安全よ。」


 シルヴィーが苦笑し、ダルニャータが尻尾を揺らす。

「教授、毎回これで新人が逃げるニャ」

「本当の科学者は逃げないものよ」


 エリカはそのまま、研究端末のディスプレイを操作した。

 そこには、古代遺跡の立体映像――崩れた石柱、青く光る碑文、宙に浮かぶ残骸。


「……あなたの世界でも、こういう遺跡はあるでしょう?

 でも、ここの“構造”は少し違う。私たちが使う魔導式と近いのに、

 精霊の痕跡がない。まるで“科学”のように設計されているのよ」


「……科学と魔法の中間、みたいな……」

「そう。だから、あなたの観測が必要なの」

 彼女の目が細く光る。

「――あなたの“目”は、理を読む。だから拾ったの」


 海斗は言葉を失った。

 どこかで自分も、同じものを探していた気がした。

 理屈と奇跡が交わる一点。その答えを、彼女は真っ直ぐに見据えている。


「教授……俺は、帰れると思いますか?」

「ええ。理論上はね。帰る方法を探すのは簡単。

 ――でも、帰りたいの?」


 問いかけに、海斗は少し黙った。

 帰りたい気持ちはある。けれど、それ以上にこの世界の“理”が気になる。

 彼は、そっと答えた。

「……今は、まだわかりません」

「それでいいわ。理解は、いつも後から追いつくものよ」


 エリカは微笑んだ。

 そして、立ち上がりながら言った。


「さて――次は、あなたの“新しい身分”の話ね」

読んでくださりありがとうございます。

次回もお時間をいただけると嬉しいです。


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作者が泣いて興奮して喜びます。あと、更新が早まるかもです。よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
まだ途中ですが、10話まで拝読いたしました。 先が気になる、惹きつける導入部分からの、不思議な世界でのストーリー。 とても読みやすく、1話あたりの分量が控えめなのでさくさく進めました。キャラクターも魅…
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