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08 仮置き令息の変化がもたらす光と闇




 それから季節が過ぎて、冬が来た。

 カランドの冬は王都よりも早く、秋の大夜会が終わった辺りで冠雪が見え始め、あっという間に領地内が真っ白になった。

 初めての雪景色に感動して早朝に庭を転げ回ったのは内緒だったが、早朝から作業する従者や使用人には見られていたらしく、その日は一日微笑ましげに見られて恥ずかしかった。


 今ではすっかりカランドでの生活にも慣れて、ようやく「リュシア」か「リュー」と呼べるようになり、彼女の補佐にも慣れてきた。

 仕事以外では二人で過ごす時間を作り、色んな事を話した。時々言い争う事もあったが、どちらかから折れて元に、否、理解が深まり以前よりも親密になれた気がする。


 前カランド辺境伯……お義父さんにもあの叱られた日から認めてもらえて「娘を頼む」と固い握手を交わした。

 ……少々痛かったが、大事な娘をもらうのだからと、しっかり受け止めた。少々痛かったが。


 以前よりも言葉が増えて表情も明るくなったとリュシアが嬉しそうに言ってくれた。前とは違い周囲が私の言葉を受け止めてくれると分かったからかもしれない。


 少し前に参加した秋の大夜会でも、周囲に驚かれた。

 特に、マリーシャ様に。

 半年ぶりに見かけたマリーシャ様は、美しい顔に翳りがあり、少し(やつ)れたように見えた。今年は前年よりも不作の領地が多かったから、その対応に追われて忙しかったのだろう。

 隣にいたルベルク公爵令息……ランドル様も疲れたような表情だった。

 リュシアと一緒にお二人に挨拶に行くと、何故か「お前……なんで……」と驚かれた。私が挨拶に来たのが意外だったのだろうか。辺境伯となったリュシアの伴侶なのでと返すと、よく分からない顔をされて、夜会の間もずっとこちらを窺っていたように思う。

 その時は不興をかったのかと心配したが、リュシアが「表情が変わって驚かれたのでしょう。ヴィー様は何も気にしなくて良いのですよ」と言ったので、納得して、久しぶりの夜会をリュシアと楽しんだ。


 来年の春にはリュシアとの結婚式を控えている。今は会場の装飾を決める段階で、リュシアはお義母さんと二人で悩んでいるところだ。

 ああなるとすごく拘るから下手に口を出さない方が良い、とお義父さんも言うので、私も二人に任せてしまっている。

 ……一応、自分が「あ、これ良いな」と思ったものをリュシアには伝えておいたけど。


 だが、そんな幸せの絶頂から突き落とすような噂が王都で広がった。




「先日マリーシャ殿下がご懐妊されたと発表されたが……何故かその父親が……ランドル様ではなく、アーヴィン君だという噂が王都を中心に流れている……」


 まず思ったのは「有り得ない」だった。


 時期的に秋の大夜会の前後に、という事になるが、私は夜会でも王都でもリュシアを一人にしていない。常に共に過ごしていた。

 そう返せば、お義父さんは「ああ、会場で二人を実際に見た者は信じていない。もちろん、私もアーヴィン君を信じている」と私の目を真っ直ぐ見て強く頷いた。

 お義父さんの隣に座るお義母さんも、同席した義弟も、私の隣に座るリュシアも、同じ表情で、私はようやく安心する。


「だが、何故かマリーシャ殿下が、君が父親だと言って譲らないらしい」

「……陛下や、ランドル様は、なんと……」

「どちらも何も言わない。王家側が肯定も否定もしないから、貴族派がここぞとばかりに王家の醜聞(殿下の不貞)だと噂をばら蒔いて、収まらなくなっている状況だ。彼らには噂の真偽など関係ないのだろうね」


 貴族派とは別に、王家にも何らかの意図があって、わざと噂の収束を防いでるようにも感じる。

 やはり大夜会でなにか粗相をしたのかと思ったが、それは何度もリュシアに否定された。


「貶める事が目的なら、ヴィー様に無理矢理行為に及ばれて孕んだ、とでも言えば良いだけです。そちらの方が私達にも痛手ですし、場合によっては極刑になります。しかしそうではない。……恐らく、ヴィー様を手元に戻そうとしているのではないかと」

「私を? 十五年も疎まれていたというのに、何故? 公務でも外交でも役に立たずだと言われていたのに……」


 リュシアとカランド領の人々のお陰で、私の自虐的な思考は幾分か減った。それでも時々思い出す事があり、卑屈になって、思考を縛る。

 ふと手に暖かさを感じて見ると、リュシアの手が私の手に重ねられ、微笑んでいる。

 見つめ返すと黄色目に少し赤みがさす。

 その暖かい色に、私は何度も溶かされ、救われてきた。


「ヴィー様は、いつも私の事を支えて下さる、素晴らしい方です」

「……うん、ありがとう、リュー」


 そっとリュシアの手にもう片方の手を重ねて微笑み返すと、リュシアの頬も目も真っ赤に染まる。

 可愛らしいなぁ、と思っていると後ろ向きな考えは溶けて無くなっていく。

 お義父さんが咳払いで空気と話を戻す。


「前にリュシアが懸念していたから、陛下に釘を刺しておいたのだが、それが反故されたという事は、カランドに対する敵対行為と見なしていいだろう。……必要無いと思っていたが、あの事(・・・)をきっかけに動いておいて正解だったな」

「あのねお父様、私、実はあの方達に言いたい事が山ほどあったの」

「そうか。では、報告(・・)ついでに挨拶(・・)してくるといい」


 楽しそうにリュシアとお義父さんは笑っているが、オーラがどす黒い。

 お義母さんと義弟を見ると、慣れたように紅茶を飲みながら、お義母さんが「ほら、アーヴィン君。このお菓子、美味しいわよ」と笑顔ですすめてきた。

 最近になってようやく私に慣れてくれたちょっと人見知りの義弟は、苦笑して肩を竦めた。


「準備も終わりましたし、ついでにちょっと埃を払うようなものですよ、義兄さん」


 カランドの民は、長く過酷な冬を過ごすからか、メンタルが柔軟で強いところがある。

 私はどうも弱い部分があるので、少しでも見習わねば。




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