新婚の時間
いちゃらラブしている人たち
数日後、マリエッタの手紙と一緒に小さなお守りも届けられた。
怪しい魔法は駆けられていないという認定証まで同封されていたものだから、ユフィリアは首を傾げる。そんな怪しいものを何故とわざわざ、と疑問を抱いた。
マリエッタの手紙を読み進めれば、その本当の送り主が分かる。
「……お兄様から?」
小さなピンク色のお守りは、雑貨や土産屋によくある安価なものだ。
ミストルティンでは見ないが、ゼイングロウではちょっとした験担ぎによく用いられる。
(お兄様はあまりこういうものを好かない人だったのに)
どういう風の吹きまわしだろう。
占いや気休めと言ったものは無駄と考えるタイプのブライス。彼がお守りを買ってまで送るなんて、想像ができない。
値段的にも安価で、これで気を引いたり恩を売るなんて無理だろう。平民の子供の小遣いで手に入る。
(ピンクなんて……こういった色を欲しがるのはいつも……)
ユフィリアの脳裏に過るのは、若くして処刑された少女。
愛らしく華やかな色合いを好んだアリス。欲しがり屋の妹。最後は満たされない欲に溺れ、何も手に入れずにその命を散らした。
いつも誰かに「ずるい」「ほしい」と繰り返して、本当に欲しいものと区別もついていなかった。
「ユフィ、どうしたの? お守り――って俺の渡したのじゃないやつだけど。誰から?」
ユフィリアの後ろから、ヨルハが顔を出した。ユフィリアを抱きしめて、その手元を覗き込む。
特に隠す物でもないので、ユフィリアはお守りを見せる。
「お兄様です。マリーがおかしな仕掛けもないからって証明書付きで送ってくれました」
こんなものが付いているあたり、マリエッタもブライスを信用していないのだろう。
手紙にはブライスに変化があったとは書いてあったが、過去の振る舞いから疑い深くなっている。
「ふぅん……ん?」
最初は目を剣呑に細めてお守りを見ていたヨルハが、何とも言えない顔になる。
「うーん、まだ早いかな……うん、最低半年。いや、もっと欲しいな。二年後くらい?」
「ヨルハ様?」
いつになく歯切れの悪いヨルハに、ユフィリアは首を傾げる。
言葉の意図が汲み取れず、怪訝半分、心配半分だ。
「ううん、新婚生活は楽しいなって思って」
そう言うとユフィリアにキスを降らすヨルハ。
ユフィリアは優秀であっても急遽決まった婚姻では、ゼイングロウの古語などは知らない。メーダイルから受け継いだものではなく、獣人たちが独自に作り出した複雑な文字だ。
一見すれば、模様や紋に見えるだろう。
(『安産祈願』か……将来的には必要だけど、今はまだユフィとの蜜月を楽しみたいからね)
キスはだんだん吸い付くよう深くなり、徐々にユフィリアの息も上がってきた。普段は白い頬が紅潮し、紫がかった空色の瞳が艶めいて潤んでいる。
経験上、ヨルハの望みがキスでは済まないことを理解しているのだろう。
今日の予定はないし、明日も午前中にはない。じっくりと濃密な時間を過ごすにはちょうどいい。やや戸惑いがあるが、ユフィリアも嫌がっていない。
一昨日は少し無理をさせたから、昨日と今日は我慢していたのだ。
「ユフィ、部屋に行こう?」
「……はい」
まだ恥ずかしいのだろう。俯きながら小さく頷くユフィリア。控えめな返事が、以上をしていいという了解でもある。ヨルハはこの上なくご機嫌に微笑んだ。
ユフィリアの足はもう力が入らないのだろう。キスの途中から、ずっとヨルハが抱きしめて支えていた。
そのままユフィリアを抱き上げ、上機嫌で寝室に向かうヨルハ。
小姑より煩いリス妖精だが、仕事はきちんとやる。この時間なら寝台も整っているはずだ。
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