番のためなら
イアンとソフィアの処遇
ユフィリアとヨルハが帰るときには、三人はいなかった。
帰りの牛車に揺られながら、隣り合って話し合う。
お店でのもてなしが素敵だった。出されたお菓子もお抹茶、美味しかった。お菓子なんて、本当に可愛くて食べるのが勿体ないくらいで、色鮮やかで豊富な造形には目移りしてしまった。
お菓子だけでなく、試飲して美味しかった抹茶もいくつか購入したので、今度は道具も購入して点て方や作法を習う予定だ。
店に入る前は少し気を落としていたユフィリアも、帰る頃にはすっかり明るくなっていた。お店では楽しい時間を過ごせたのだろう。気に入って貰えたようで、ヨルハの表情も柔らかい。
「そうだ。ユフィ、これ」
そう言ってヨルハが渡したのはころりとした小さな陶器製の梟。
「これは……根付ですか?」
「そう。それに梟は幸せを呼ぶ鳥と呼ばれているし。お守りでもあるよ」
「ありがとうございます」
根付は留め具にも使われる。巾着などによく使用される。鞄などのチャームと同じように、お洒落としても活用されている。
嬉しいけれど、いつも貰ってばかりなのも心苦しい。
ヨルハに何かお礼をできないかと考えていると、首に組紐がある。三本作った組紐はユフィリアが編んだものだ。ヨルハは大事に愛用し、いつも付けている。
(また手作りで贈ろうかな。お茶やお料理もそうだけれど、手作りを喜んでくれるから)
ハンカチ一枚でも一流職人の作品より、ユフィリアがワンポイントいれただけの市販品を喜ぶのである。
ただ、ヨルハに内緒で作るのは至難の業だ。
廊下を気にしていても、気配が薄く足音も静か。それだけでなく、いきなり窓からひょっこり顔を出すこともある。
アットホームで垣根が少ない生活。ヨルハがユフィリアを溺愛し、スキンシップが好きなこともあるだろう。同居ならではの問題だ。
でも、ユフィリアはあの寒々しい虚栄ばかりのハルモニア伯爵家より、今の精霊の木の家のほうがずっと愛着がある。
(嬉しかった。ヨルハ様は嘘をつかない。本当に大事にしてくださる)
ソフィアやイアンが話しかけてきた時、不当な要求をしてきた時、ヨルハはずっとユフィリアの傍にいた。一定以上近づかないように、視線と体で牽制しながらも、ユフィリアの答えを待ってくれた。
全身で、言葉で、ユフィリアを守ると示していた。それがどんなに心強かったか。
「あの、ヨルハ様。私の実家が大変失礼しました」
「気にしないよ。ユフィとアイツらは違うし。そんなのユフィに失礼だ」
何を言っているか分からない。
そんな文字が頬に張り付いているような表情のヨルハ。
きっと以前なら困惑していただろうけれど、短いながらも濃密な日々を過ごしているから分かる。
ヨルハには番とその他大勢の線引きが明確だ。
それが肉親だろうが関係ない。ユフィリア第一主義が念頭にあり、ユフィリアに害悪かで差別化される。唯一、例外はシンラやコクランだろうか。
神獣であるヨルハには劣るが、幻獣の格を持つ二人は特に気を許しているようだ。二人とも番を持つ身なので、それも理由だろう。
「寛大なお心、感謝します」
ユフィリアはヨルハの肩に頭を乗せる。
口では慇懃な礼を言いつつ、その仕草は恋人としての甘えだ。
その様子にヨルハは満足だ。ユフィリアが一緒にいなければ、ひき肉にしてやりたいくらい苛立っていたのを我慢した甲斐がある。
可愛い恋人に、汚い血肉の広がった光景など見せたくない。
(しかし、ラインハルト殿には忠告しておくかな)
確実にハルモニア伯爵家の現当主夫妻を表舞台から退場させる必要がある。見たところ、ブライスは約束を守ろうとするだろうけれど、まだ跡継ぎでしかない。
仕事も父親のサポート中心だというし、現当主のイアンがごねたら難航する。
ならば、イアンが強く出られない相手に圧力をかけさせるのが早い。
国王のラインハルトから蟄居を言い渡されれば、イアンはソフィアを連れて領地に引き下がるほかない。
結婚式のためにミストルティンの国王夫妻は少し早めに来て、ゼイングロウの様子を見るはずだ。こちらに来る前に、代替わりをさせたほうがいいだろう。
貴族たちも多く来る。宮殿に招待されていない貴族だって、祝賀ムードを味わうためだけに観光しに来るのだ。
(師匠にも早く来てもらおう。今は大丈夫だけど、ユフィがマリッジブルーになったら相談しやすい人が必要だ)
身の回りのことはリス妖精が完璧にやってくれるが、ユフィリアとは喋れない。
それでも何となく会話は成立しているのは、リス妖精のコミュニケーション能力や肉体言語や顔芸の幅広さゆえだ。
細かい会話は、やはりヨルハをはじめとする獣人を通さないと難しい。
ヨルハがユフィリアを見ると、指で梟の根付を転がして嬉しそうにしている。
(可愛い)
番があまりに可愛らし過ぎて、他のことが頭から消えうせるヨルハだった。
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