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朝の出来事

 結婚式編、スタート。

 



 夜が白々と明け始め、太陽が徐々に姿を現す。

 柔らかな朝日が差し込むとともに、大地を、森を、河を、山々を照らし出す。

それは遍く生き物たちに新しい日を告げる。ゼイングロウ帝国もその中に漏れず、朝を迎えていた。

獣人たちが大半を占めるゼイングロウ帝国。

 皇帝ヨルハの住まう場所は強固な城壁と、荘厳な城――ではなく、樹齢が三桁を軽く超えている大樹である。

 瑞々しい緑を生い茂らせ、今なお隆盛を誇るその大樹は精霊が宿っている。

 その木自体が意識を持ち、人知を超えた力すら有していた。そんな稀少な大樹は当然ながら、根を下ろす場所も住人もえり好みする。

 住まうことを許されたのは皇帝であり、獣人でも最も高い格を持つ神獣ヨルハ。そして、その伴侶――番のユフィリアである。

 番とは獣人が運命の相手として定めるたった一人。

 獣人一人一人に必ずいるという訳ではなく、一握りだけが出会える存在。

 傾向的に格の高い獣人は番を得る可能性が高く、神獣のヨルハは番以外の伴侶を持つことは不可能だった。

 格が高い獣人は同族だと子を得にくい。自然と他種族でも身近な人間から番を得ることが多かった。

 ヨルハの伴侶も隣国ミストルティン王国出身だ。

 婚約者がいたがそれはもう全力で外堀を埋めて、自分の婚約者にした。

 もともと、ユフィリアの婚約者は彼女を粗雑に扱っていたのでそれほど難しくなかった。

 相手に有責事項は多く、大国ゼイングロウの力と財力ビンタで黙らせたのだ。お上品なやり方ではないが、獣人は番を見つけるとそれ以外見えなくなる。

 ヨルハも例に漏れず、ユフィリアに一目惚れ。

 ユフィリアにも好意を全力アピールして、口説いて、口説いて、口説きまくった。

 その後、色々とあったが――ユフィリアはついにヨルハの想いを受け入れてくれた。

 ユフィリアを連れ帰り、早数か月。

 ゼイングロウは祝賀ムードが高まっていた。

 市井でも皇帝ヨルハが見つけた麗しき番ユフィリアを歓迎している。その人気に便乗して、グッズが作られ、特売やイベントなどが行われる。

 ――二人の結婚式が近づいていた。







 大きな寝台の中、白いシーツの上に美しい少女が眠っている。

 新雪のような白銀の髪、同じ色の長い睫毛、薔薇色の頬をした白皙の美貌。華奢な体躯は、呼吸で僅かに動いている。

 よく寝ており、呼吸はゆっくりと穏やかだ。小さく身じろいで一瞬瞼が震えるが、少し隣にすり寄るとまた眠り続けた。

それをじっと見つめている人物が一人。

 ところどころに茶と黒の混じる不思議な象牙色の髪と切れ長の黄金色の瞳をした、迫力の美丈夫だ。

 少女のすぐ隣にいるのに、恐ろしく気配が薄い。華奢な少女と並ぶと、そのしなやかな筋肉がついた巨躯は明らかだ。

 彼はそうっと手を伸ばして、腰のあたりまでずれた薄い掛け布団を少女の肩まで引き上げ、彼女の頭を撫でる。

 寝心地が良くなったのか、心なしか少女の表情が微笑んだ気がした。


(可愛い、ユフィ。よく寝ている……来たばかりの頃は眠りも浅かったけれど、最近はとても深く眠っている)


 良いことだ。ヨルハはユフィリアの健やかな生活を真剣に望んでいた。自分の睡眠を削り、ユフィリアを見守るくらいには切実に願っていた。

 この儚げな美貌の少女、ユフィ――ユフィリア・フォン・ハルモニア伯爵令嬢。

 番大好きな見守り美丈夫こと皇帝ヨルハの番である。

 彼女を帝国に招いてからずっと同じ家で、同じ寝室で寝ている。


(同衾できる寝台を用意しておいて、本当に良かった。コクランがしつこく言うから作ったけど、すごくいい。ユフィの気配が近くに感じられてすごく幸せだ)


 ヨルハは気配に鋭い。感覚が敏感で、良くも悪くも快不快にも強く反応した。

 出会って狂おしいほど恋焦がれた番と一つ屋根の下でも、距離があったらここまで幸福感に満たされなかっただろう。

 むしろ、夜に別れて朝になるまで顔を合わせられないのが窮屈になっていたかもしれない。

 ユフィリアに異変があってもすぐに確認できないと、気が気でなかっただろう。


(……あと十分もしないうちにユフィが起きる時間だ)


 外の光が強くなっている。カーテン越しに明るくなり始める室内。

 完全な遮光カーテンではないのは、人間のユフィリアが目覚めても困らないためだ。

 真夜中のように真っ暗では、何も見えない彼女は困惑してしまうだろう。

 この寝室はすべてユフィリア基準だ。寝台の高さも、カーテンの仕様も、落ち着いた上品な調度品も、うっすら焚かれた香も――ヨルハにとって何ら興味はないものだった。

 ユフィリアが来るまでは。

 今のヨルハは、ユフィリア中心に回っている。

 それが煩わしいどころか、過去最高どころか人生において比類なき幸せを齎していた。

 空虚な部分が、自分でも気付かなかったぽっかり空いた穴が埋まっていくのが分かる。

 なんて幸せなのだろうか。

 ヨルハはゆっくりと瞼を閉じ、ユフィリアの目覚めを待った。





 読んでいただきありがとうございました!


 ややストーカー気質なほどユフィリアを気にするヨルハ。

 とてもユフィリアが大好きで、まだ片思い気味に自分のほうが愛情ベクトルが重いと知っている。

 大事にしたいし、しているけれどわりといきすぎでずれている。

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― 新着の感想 ―
財力ビンタw 初めて目にする言葉ですが、分かりやすくて忘れられなくなりました(笑) 今はヨルハ様の方が圧倒的に熱量が多いけど、ユフィは見た目と違って内面なかなかの強者ですから、しっかりと受け止めて自…
[良い点] ユフィ様、寝姿さえも麗しい♡ [気になる点] ヨルハさん? 今、何が何してどうして、寝姿鑑賞してる訳?! 婚約中じゃなかったっけ? とはいえ、今更か··· [一言] 何だか不気味な気配が…
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