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歓迎の宴

本当は昼間からの予定でしたが、ユフィリアの様子を考慮して夕方に宴を開いています。


 宴は華やかだった。

 ユフィリアは御簾越しに次々と披露される舞や音楽、曲芸を見ていた。

 ヨルハとユフィリアの席は、特等席と言うべき一段高い場所で宴の会場を見渡せる。

 御簾には大きな鳥が翼を広げた姿がデフォルメで描かれている。ユフィリアのいる席の左右には、シンラとコクランがいる――らしい。

 うっすら人影は見えるが御簾が下りているのでわからない。特殊な御簾らしく、内側からは見やすいが外側からはこの通りだ。

 正直、だいぶ肩の力が抜けた。


「歓迎の宴とは銘打っても実際はどんちゃん騒ぎだから、ユフィも楽にしてていいよ。

 多分しばらく騒いで二日酔いが続出するし、仕事を溜め込んだ連中もいるからちゃんとした自己紹介できるのは一週間後くらいかな?」


 脇息に片ひじを付きながら、やや気崩した姿で葡萄を摘まむヨルハ。

 ゼイングロウの衣装らしき薄墨色のバスローブのような服。その上にゆったりとしたコートのようなものを羽織っていた。黒地に金糸と深紅の糸で大きな鳥の番が描かれている。

 ユフィリアは反対に白い衣装に浅黄色のスカートも履いている。上着は銀糸と群青でヨルハと同じ柄が描かれている。


「神獣の番が見つかったから安心しているんだろう」


「神獣?」


「獣人の強さの格だよ。一番上の神獣は俺だけ。滅多に生まれないし、なかなか番を見つけられないこともあるから」


 見つかるまで何度もミストルティンを訪問して、毎年番探しに奔走した者もいる。

 ずっと番探しに後ろ向きだったヨルハが、一発で引き当てたのも喜ばしい。


「……人間の私ですが、歓迎していただけるのは嬉しいです」


「うーん、人間なのは最初から想定内だよ。神獣レベルだと、同族から見つかった前例がないし」


「酉の一族からですか?」


「いや、ゼイングロウから。獣人ほぼ全般?」


 ヨルハの説明にユフィリアは口を小さく抑え、驚いた。

 だが、それが獣人としては普通のことならば受け入れやすいだろう。

 同時に人間ばかりの小国ミストルティンが、ゼイングロウに目を掛けられた理由が分かる。さらに南のメーダイルは険悪だし、安全な嫁入りや婿入りをするために必要ならば納得がいく。


(でも、番探しは不定期だからスムーズにいかないのよね……)


 ゼイングロウを学ぶ一環で、過去の番探しを調べた。

 ミストルティンは番探しを毎回手伝っているが、毎年ある行事ではない。前回の番探しから時間が空きすぎて、前回の番探しに参加した者がすでに退職や老衰なんてこともざらだ。

 毎度書物をひっくり返して手探りなうえ、見つかれば暴走、なかなか見つからないとナーバスに陥るゼイングロウの面々に振り回される。

 ゼイングロウに感謝され、得られる謝礼も莫大だが大変である。

 ハイリスクハイリターンな人探しなのだ。

 今回――ユフィリアの場合はかなりスムーズなほうなのだろう。一回目の訪問で見つかったのだ。

 静かに安堵しているユフィリアの表情に、何か懸念を感じたヨルハがそっと近づく。ユフィリアを抱き寄せ、耳朶に吹き込むように囁いた。


「誰かに文句言われた? 誰? どこかに落としてこようか? ゼイン山脈にはいい感じの断崖絶壁やクレバスがあるから戻ってこないよ」


「ややややめてくださいませーっ!」


 ぶぶぶぶ、と震える勢いで首を振るユフィリア。

 どうしてこう未来の夫はアグレッシブなんだろう。そして、何でもないように怖い発言する。

 ユフィリアが目を回す勢いで止めているが、ヨルハはそんな姿さえ愛おしくうっとりしている。

 二人の座席に近い十二支族の代表は、こっそり酒を傾けながら軽く引いていた。


(((((うわ、やっば……番様に関わる時は気をつけよ)))))


 悲しいことに獣人だからこそ聴覚が人間よりはるかに鋭敏だった。

 今までに聞いたことのないヨルハの甘ったるい声から、ドロリとした粘りのある執着心を否応なしに感じ取った。

 感情の起伏が薄く、常に無関心に周囲を見ていた今までのヨルハからは想像できない溺愛っぷりだ。

 隣の座席にいたシンラとコクランは、ヨルハが酔っていないことに気づいている。流れてくる香りにアルコールの気配がない。

 ユフィリアに気を使ってか水か冷茶しか口にしていないので、ヨルハは当然ながら素面の状態だ。

ヨルハはたいていの毒も効かないし、酒にも強い。酒豪の中でもザルを超えたワクである。

 なんかもう、色々な意味で怖い。


「(おい、グレン。今回の出し物に変なのないよな? 裸踊りとか、下ネタとか)」


 こそこそと後ろにいた息子に聞くコクラン。

 朱金の髪を面倒そうにかき上げながら、青年は首を振る。

 だらしなく着崩れた正装に、周囲に侍らせた肌の露出がやや多めの美女たち。まさにモテ男を体現している。

 ジャッカルの獣人であるコクラン、その息子のグレンは狼の獣人だ。

 コクランの妻は人間だが、格の高い獣人との間の子供は必ず獣人となる。格が低い獣人と人間だと分かれるが、少なくとも聖獣や神獣の格を持つ獣人と人間の夫婦に人間は生まれない。

 子供は獣人側一族の系譜――親か、稀に祖父母や曾祖父母の一族となる。だからトンビが鷹を生むどころか、チワワが狼や虎を生むことがある。

 グレンは基本複数の女性を連れてハーレムを形成していた。番一筋のコクランとは正反対である。

 女好きで倫理観が少し爛れている。今の催しも気乗りしない顔で眺めていた。


「ねーよ。見事にお上品なのばっか。つまんねぇー」


 安堵しているコクランを、怪訝そうな顔して見るグレン。

 踊り子だっていつもならもっと露出が多く、激しいダンスや官能的な音楽を奏でる楽団が呼ばれる。

 今回は伝統舞踊が多い。花びらなどを降らせて華やかだが趣味に合わない。


「なんだ。ミストルティンから来た伯爵令嬢ってのはお高くまとまってるんかねー? 今度ナンパしてみよっかなぁ」


 ニヤリと笑うグレンだが、その眉間めがけて脇息が吹っ飛んでいった。

 見事にクリーンヒットし、そのまま目を回して倒れるグレンを肩で息をしながら睨みつけるコクラン。


「マジでやめろ。そんなことしたら、かーちゃんにも言うからな」


 それは心からの忠告であり、愚行に走りそうな息子への警告だった。

 だが、気絶したグレンには聞こえなかった。




読んでいただきありがとうございました。

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