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4.直葉の秘密を見たり?

 星花祭は今年も大盛況のうちに幕を下ろした。

 また日常が戻ってきた。

 この時期は、志保にとってはつかの間の安らぎの期間ともいえる。

 吹奏楽コンクールも終わり、文化祭も終わり、後は冬のアンサンブルコンテストに向けて支度をしながら時々イベントで演奏する程度だ。

 吹奏楽部の活動が気楽になる季節なのである。

 あまり気を抜きすぎてもいけないが、貴重な休息期間ともいえるこの時期。

 志保は基礎練習とアンサンブルコンテストの候補曲、そして地域イベント向けのポップスを一通りさらうのが部活の日課だった。

 9月末のとある休日。

 まだまだ暑い日がちらほらあるけど、今日はなんだか涼しいそんな日。

 志保は星花女子学園近くの商店街に遊びに来ていた。

 目的としてはSRPG 《シミュレーションロールプレイングゲーム》『ファンタジーエヴァンジェリン』の新作の予約である。

 家電量販店『でんでん電機』には……先客がいた。

(もしかしてあれ、情報科の千国先生?)

 千国先生が教えているのは基本的に中等部の情報科である。

 しかし情報科の教員はまだまだ十分とは言えない。

 高等部の先生が休暇の時など時々ではあるが、中等部の教員である千国先生が高等部に教えに来ることがある。

 それで志保も千国先生の顔だけは覚えていた、というわけだ。

「千国先生?」

 呼びかけてみる。

「きみは確か高等部の……」

 顔はわかっても名前まではすぐに出てこないらしい。

 本来は中等部メインの先生だから、高等部の生徒の名前まではなかなか覚えられないのも無理はない。

鉄木てっき 志保しほです。高等部の1年1組です。」

「ああ! 鉄木さん! ごめんね。高等部にはたまにしか入らないからなかなか覚えられなくて。」

 顔と名前がつながったらしい。

 千国先生はにこやかに志保に話しかける。

「先生、もしかしてゲーム好きですか?」

「そうだよ。ファンタジーエヴァンジェリンはファミコン時代からのファンでね。昔はやりこんだけど今はもうそんな時間ないからさ。今はこうして予約のビラの前で買うか買わないか悩んでるってわけ。」

 千国先生はどこか悔しそうに話す。

 志保は思わぬ同志の発見が嬉しくて、

「え! ほんとですか!? 私、ファンタジーエヴァンジェリン『天地創造』が大好きで新作も欲しくて予約に来たんです!」

 と息継ぎもせず一息でしゃべる。

「『天地創造』ってこの前のやつか。それも実況で見る限りでは面白そうだよね。まあ、時間と興味があったら昔のファンタジーエヴァンジェリンも遊んでみなよ。なんならハードとカセットと攻略本、セットで貸してあげるから。」

「攻略本……? カセット……?」

志保は言葉の意味が分からずオウム返しになってしまう。

そんな志保を見た千国先生はショックを受けたようだ。

「……まあ、昔のゲームに興味があったら職員室かPC(パソコン)室においで。……さて。私はそろそろ行こうかな。新作は……やる時間ないし、きみから感想を聞かせてもらおうかな。それじゃあね。」

 千国先生はそう言って立ち去って行った。

 こんなところで先生とばったり会って、しかもそれが同志だったとは。

 志保は予約をささっと済ませると、せっかくなので商店街を回ってから帰ることにした。

 ふと、志保はメインストリートから少しそれた裏道の、とある店の前で足を止めた。

「……ここ。こんなお店もあったんだ。」

 そこは……まるでファンタジーから抜け出してきたかのように、フリフリでゴージャス……すなわち。

 ゴシックアンドロリータ。

 縮めてゴスロリ。

 そのような服飾を扱う店であった。

 ふだん、そのような一風変わったお店には、志保は少し目を止めて、あまり自分に縁がないものだと判断すると、ささっと立ち去ってしまう。

 しかし。

 志保は店そのものよりも、中にいる人物のほうに釘付けになってしまった。

 ……直葉だ。

 それなりに親密になった友人だ、間違えようがない。

 すーっと、志保は引き寄せられるかのように、店内に入っていった。

 そして志保は、まったく変わった意図などなく、ただただ普通に。

 直葉に話しかけた。


 店内には、直葉の素っ頓狂な声が響き渡り、こだました。


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